Eno.251 ピエトロペネエネ

■ 海のメモ



目を閉じてください。

あなたの瞼の裏で、眼球が動いています。

その向う側に微か光が瞬いています。

深く深く、息を吐き出して。

肺が潰れてしまいますから。









──深度100m。
まだ少し明るいでしょう。
薄ぼんやりとした風景は、あなたの微睡みに似ています。

──深度200m。
辺りは暗闇に包まれ始めました。
見渡す限りのトワイライトが、ゆっくりと瞼を開いてゆきます。

──深度300m。
生身の人の潜水記録は大体この辺りでしょう。
ここからあなた方が再浮上するには、来た時の何十倍の時間がかかります。
あなた方の体では、ここが最果ての地なのでしょうね。

──深度400m。

──深度500m。

──深度600m。








──やがて数1000mへ。

あなた方の生まれ故郷、タンザナイトの腕の中。

規則的な心音が響いています。

両手足を開き、あやす動きに身を任せて。

私はどこまでが私で、あなたはどこまでがあなたなのか。

この奥深くは、光も、時間も、音さえ響かない。

私達はそうして、何年何十年何百年も黙しています。

あなた方の宇宙よりも、深く暗く未知に溢れた。

そんな水底で眠っているのです。

夢を見ているのです。