Eno.250 オクエット・ストレングス

■ 0.『運命の天啓 アルカーナム』

オクエット
「こらエヌよ! また不摂生で粗末な生活を送っておるな!?」


エヌ
「うわ来た……いいでしょ、別に……誰も困ってないし」


オクエット
「民の不始末は領主である余の不始末でもある! 汝だけの問題ではないのだ!
 全く……ほら、信仰深きウィールド領の水だ、
 あそこは遠いが山の水ということだけあって美味い。特別に汝に分けてやろう」


エヌ
「僕それ神聖な力が入ってて苦手なんだけど……」


オクエット
「む……あぁ、すまない、汝は人狼であったな。
 仕方ない、では余が飲み干しておこう。……それはそれとして、
 美味いものは食ってもらうぞ!」


エヌ
「あぁもう……好きにして…………僕は魔術の研究、してる……
 勝手に台所、使っていいから……」


オクエット
「うむ、よろしい。
 では腕によりをかけて作ってやろう。ちゃんと食料も持ってきてやったからな、
 今準備す ――」


エヌ
「もう完全に……母親か何かなんだよ……
 定期的に来るし……世話焼き……」


エヌ
「……いつも、ありが……、」






エヌ
「…………あれ? オクエット……?」


エヌ
「…………もしかして……『呼ばれた』……?」


エヌ
「……行ってらっしゃい。今度は『正位置』だと、いいね」







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……はるか昔、魔術師シャルルは占いに否定的な見解を持っていました。


「占いは星の並びだの骨の割れ方など、そのような根拠のない事象から人の未来など当てることなどできない。
水晶玉で未来視は占いとは呼ばない、未来予知の魔術の一種である」



彼はそう考え、占いに対する『解』を作り上げました。


「そうだ! 占った後で、占いの結果になるよう導けばいい!」


こちらの方が占いとして何か間違っている気がしなくもないですが、シャルルは名案だと信じて一つのアーティファクトを作り上げました。
善意からではなく、悪意からでもなく、ただ己にとっての『占い』に対する回答であるそれは、現在発見されるアーティファクトの中でもとんでもない代物でした。



―― 運命の天啓『アルカーナム』



それは現代もよく知られるタロットカードであり、原点になったものだとされています。しかし、現代で知られるそれよりもずっと大規模なものでした。
彼はカードの1つ1つに人格を与え、それらを付喪神にしました。そして存在が暮らす『箱庭』を用意し、彼らは彼ら同士暮らしてもらうようにしました。付喪神らのリソースは全て魔力ですが、箱庭に魔力を用意してやれば、その世界の中で魔力が循環し、決して魔力が尽きることはありません。しかし占いを行えば魔力を使用するため、魔術師は外の世界からも魔力が蓄積する機構を用意しました。
占い方はとても簡単。たった一枚、カードを引くだけ。あなたの選んだカードは付喪神として箱庭から現界し、カードに込められた意味通りに行動します。そうして占いの結果通り、あなたの運命を定め、そして役割を終えれば彼らはまた箱庭の世界へと戻っていきます。


それは膨大な情報の貯蔵庫
それは小さくとも別世界の創造
それは人型の生成
それは運命操作 そして不確定からの確約



超越された技術で作られたそれは、今は彼の友人であったという魔女の手に渡り、管理を任されています。魔女は不老の存在。彼が亡くなってからもう1000年は時が経ちましたが、今でも魔女は快く番をしています。
番といっても、そのアーティファクトを正しく使われるように見守り、必要があれば手を加え、まるで我が子のように1つ1つのカードを大切にしました。道具でありながらも、魔女にとっては我が子のようにそれらを見守るのでした。



……え、カードを引いていないのにアルカーナムのカードを名乗る者を見かけた?
それはきっと、魔力放出の一環で、どこかの誰かへと勝手にカードが『占った』結果でしょう。
現在、アルカーナムを求めてカードを引く者は殆どおらず、占いに使われるはずの魔力を持て余しています。
もしかしたらこれから、あなたも見知らぬカードを手にするかもしれません。
もしかしたらそれは、アルカーナムの占いかもしれません。