■ アラビア語の日記 八頁目
弱まった風雨に嵐の切れ間をみて、
意気揚々と釣り竿を担いで行ったら盛大に足を滑らした。
岩肌が粗いのもあって、結構痛い。
幸い誰も居なかったから、のんびり手当する間、
岩に挟まる金剛院さんの事が何となく思い出された。
2年1組のお嬢様コンビは、
個性豊かなクラスの中でも特に目立つ存在だったと思う。
宝来坂さんはフィジカルとメンタルの方向に、
金剛院さんはプライドとか気位の方向に振り切れていて、
契約的に送迎が必須だった僕も、
彼らの影にうまく隠れて済ます事が出来た。
この孤島に来ても、それは、基本的には変わらない。
けれど、金剛院さんの方は、
元々あったその気質を更に強めているようにも感じていた。
僕はそれを、ただ、プライドの問題として深入りを避けた。
それを『くだらない強情』と言って切り捨てさせる事は、
どうしたって僕には出来ないのだから。
けれど、今思えばそれは、
それほど単純な問題ではなかったのかも知れない。
彼女が必死に守ろうとするプライドは、
ただ自分の上に積み上がったものではなくて、
自分を切り詰めて切り詰めて、そうして残った最後の領地に、
唯一そびえる牙城だったのかも知れない。
もしそうだとしたら、あの覚悟も理解できる。
それを失う事は、今の僕だって嫌だ。
これは全部推測で、
本人に直接聞いた訳じゃない。
ただ、それを聞きただすだけの機会だけは、
この先にもずっとずっと……続いていて欲しいと思う。