Eno.108 アノーヴァ・ピィヴァル

■ 《41: アノーヴァ・ピィヴァルの日記 - 記憶・5》

否徒は自らバケモノに変じる力を持つ。
現実を、自分を否定するに足るほどの怒り、悲しみ、憎しみ―――それらを、魔法のように現実を書き換える力とし、鎧のごとくまとうことで、姿を変えるという。
しかしそれは、己の心をすり減らす行為でもある……
否徒の末路は多くの場合、暴力と破壊を繰り返すうちに自分が何者かもわからなくなっていき、ついには正真正銘のバケモノと化してしまうことである。

だが、ペタラ姫がそうなるのはあっという間だった。

ペタラ姫は、母である女王メトスから、ハナの国の巨木の真実を伝えられ……どうにかできないかと、思ってしまった。そしてその思いを諦められなかった。
チエの国のもつ智慧や、あるいはテツの国の技術さえも活用して、巨木の暴走を永遠に止められる方法を見つけられないかと、相談した。
しかし……女王は聞く耳を持たなかった。本当のことを知った彼らが考えることは、共存ではなく、木を死滅させる方法だろう、と。
多くの恵みがそこから得られているという事実があっても、なお。

優しさをもってすれば、全ては救えるはずだと信じて疑わなかったペタラ姫。
だが……彼女自身、その優しさで最も大切な人を傷つけてしまっていた。
姫御付きの庭師ミハサ。早くに実の父親を亡くしたペタラ姫にとって、その代わりにすらなった人。
ある時、ミハサは重い病に倒れた。
彼はもはや長くはもつまいと思い、せめて最期まで庭仕事をさせてほしいと頼んだ。
ペタラ姫はきっと治るはずだと思い、ウミの国にいる名医にミハサを預けることを決めた。
……そして、ミハサは助からなかった。

私には彼女に非があるとは思えない。
しかしそれでも、否徒たちにとってペタラ姫の心を砕くことはたやすかったのかもしれない。
彼女は否徒にされ、バケモノに変じ……

絶望を、遺していってしまったのだ。
ハナの国の人々と……タカアキに。