■ くんくん
私たちのクラスに留学生としてやってきたウィンブルーム・モーゼルの名前を初めて聞いたとき、私はかつて美術館で観た一枚の油彩画を思い出していた。
『団欒』。モーゼルという画家が描いた小品だけど、もちろんこのモーゼルとウィンブルーム・モーゼルは一切の関係がない。同じ国か、近い地域の出身なのかもしれない。
芸術には必ず下地がある。
作家の生まれ育った環境が、辿ってきた歴史が、根底にある社会通念が、作品のどこかに現れる。
私は『団欒』の質実なマチエールとキャプションから、この絵画が生まれた国に思いを馳せた。
人ひとりの立ち居振る舞いが纏う背景も、また。
二人のモーゼルに、私は同じ匂い(のまぼろし)を感じ取る。