Eno.472 ベル中尉

■ 陸軍中尉遭難記録 其の漆

嵐が去った。誰1人欠ける事なく、無事に晴れ空を拝むことができた。まさしく台風一過、である。

良かったであります、嵐が死因ではとても死にきれないでありますからね。



低体温症や転倒、溺死…遭難の死因では嵐での人死になどよくある事。しかし、ここのような非常に整ったサバイバル環境での死はもはやそうないだろう。たまに無茶をする人もいるが、それも周囲の忠言や本人の自制で死には至っていない。
それが晴れともなれば、よほど迂闊でない限りは死は遠いものだろう。

そして嵐の影響か、島の近くに難破船が漂着したという。少し足を伸ばしてみたが、これは見事。香辛料や羅針盤があるあたり、本当に運用されていたものなのだろう。
そしていいニュースがもう一つ、誰かが船の設計図を見つけたらしい。

…そうなると、いよいよ帰還も視野に入ってきたでありますね。



それは元から不可能な話ではなく、かといって遠い未来の話でもない。さすがにイカダではボロボロになって帰ってくるしかなかったが、しっかりした船ともなればこの島から出るぐらいは出来るだろう。そうなれば、この不便でありながらも快適な場所ともおさらば。…なのだが。

………



話を聞くに、一部の人はどうにも変える先の環境がよろしくないらしい。その人達の行く末がどうなるか、どうにも心配せずにはいられなかった。