Eno.250 オクエット・ストレングス

■ ⅩⅠ.『もしもの話 イフ』

「お願い……私、知らない人に、連れてこられたの……
 それで、抜け出して、お母さんのところに……帰りたいの……
 お願い! お母さんのところへ返して!」

オクエット
(…………逆位置、)


オクエット
「…………」


オクエット
「……あぁ、汝は余を引いたのだな。
 余はオクエット・ストレングス。
 大アルカナの力だ、よろしく頼むぞ」



「オクエット……ちゃん?
 え……私くらいの子だ……」

オクエット
「うむ、アルカーナムは老若男女様々故。
 余のような若い者もおるのだ」



「そうなんだー! 私シャルロットっていうの、よろしくね!
 ねぇねぇ、オクエットちゃん!
 私お母さんに会いたいの! 連れて行ってくれる!?」

オクエット
「……うむ、約束しよう。
 必ずや、母親の元へと連れてゆこうぞ」



「ありがとう!
 それからオクエットちゃん、あのね……私たち、お友達になりたいの!」

オクエット
「友達……余と、汝が、か?」



「うんっ!
 だって願いを叶えちゃったらオクエットちゃん、いなくなっちゃうんでしょ?
 だからそれまでお友達! ねっ、いいでしょ?」

オクエット
「……ふふ、友など、久しく言われておらぬなあ。
 あぁ、良いぞ! ならば今日から汝と余は友達だ!」



「えへへ、嬉しいな!
 それじゃあどこに向かえばいいかな?」

オクエット
「まずは汝の来た道を戻ろうか。
 元の住んでいた場所まで戻れるか?
 それまで余は時が来るまで箱庭世界で――」



「あの……オクエットちゃん、一緒に来てもらってもいーい?
 やっぱり一人じゃ心細くて……」

オクエット
「…………」


オクエット
「分かった、ならば共に行こうか」







「オクエットちゃんは何が好き?」

オクエット
「余は動物が好きだぞ!
 特に狼が好きだ、余の一番の友である狼は利口で聡明でな。根暗なのがたまに傷だが、いつも余の事を支えてくれるぞ」


エヌ
「へっくし」



「おおかみさんのイメージ、なんだか変わってるねー」

オクエット
「そうであろう? 余もそう思う。
 あれほど賢い狼は他におらぬ。悲観的すぎるのがちょっとあれだけどなー」


← 狼



「私ね、うさぎさんが好きなの!
 お母さんとお父さんと一緒に暮らしてたときに飼ってた!」

オクエット
「ほほう、それはさぞかしうさぎも嬉しかろうなあ。
 汝のような優しき子に可愛がられれば、うさぎも幸せ



「オクエットちゃん!
 なんじ? って呼び方禁止!」


オクエット
「えっ」



「私のことはシャルって呼んで!
 シャルロットのシャル! そんな変な呼び方しないの!」

オクエット
「変は流石に傷つくぞ!?」
「……では、シャル……」



「うん!
 えへへ、オクエットちゃん!」

オクエット
「…………」


オクエット
(……………………)





◆-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-◆



ついに立てなくなった。力が上手く入らない。まるで穴の開いたバケツに水を灌ぐように、力はするすると抜けていく。辛うじて肩を借りれば歩けるが、必要以上に歩くべきではないだろう。

嵐が去り、ボロボロの船が流れ着いた。スミレやリタも目を醒ました。けれど吹っ切れたわけではなく、辛うじて繋ぎ止められている状態だ。逃げてもいいのに、逃げ出さない二人を見ていると胸が痛くなる。

身体が動けばいいのに。
二人の代わりになれればいいのに。
休めと言えたらいいのに。


ギジ、と身体に痛みが走った。
あぁ、そうだった、核が壊れている。悪い考えはすべきではない。ここまでくれば、後はもう帰すだけなのだから。
次に必要なのは精神的な疲労のケア。動けないのであれば、対話をする。声はまだ出る。立てなくても探索に出られなくても何かを作ることはできる。

まだ、壊れたガラクタではない。
まだ、動いている。
まだ、オクエット・ストレングスで在れる。


船を作る。
脱出するための船を。

頼むから、まだ壊れないでくれ。




…………
……?

あぁ。そういうことか。
完全に壊れれば、そもそもカードと切り離され、使い捨ての魔力体となるはず。使い捨ての道具は、『壊れていない』。

軋むのも、力が入らなくなりつつあるのも。

壊れたから、なのではなく。
壊れようとしているから、なのだとしたら。

一度壊れ、再召喚というイレギュラーが起きて。
壊れた道具を応急処置された状態で、辛うじて動いているのだとすれば。






ミシ、と。ヒビが入るような音が鳴った。