Eno.597 鉄原すばる

■ 走り出す

一分一秒でも早く帰りたい。
家族に会いたい。学校や予備校に通いたい。
安心できる衣食住がほしい。
こんなところに居たくない。

早く、早く、一刻も早い船出を。
渇望に喉から手が出て、今にも嘔吐いてしまいそう。



左近に誘われて、船の装飾に協力することになった。
お腹の底から熱が沸き上がり、肌の裏側がぞくぞくして、
背中が痛いほど痺れ上がった。
ああ、私、興奮してるんだ、とすぐにわかった。

装飾なんて腹の足しにもならないし、
他にやるべきことはたくさんあるし、
それがなければもっと早くに船が完成するかもしれない。

でも、そういうことだ。
私がやろうと決めたことは、一生それの繰り返し。
無為、無駄、無益の金食い虫。
シマの中だろうと外だろうと、どこに居たって変わらない。

私は、一分一秒でも早く帰りたい。
でも私は、それと同じくらいやり遂げたかった。
与えられた仕事を。頑張る人の支えを。

やってやろうじゃないの。
私たちの生を知らしめる、大きな大きな花火を上げよう。



羊が大きいと書いて、美。
大きく肥え太った羊は、つまり神様への捧げ物だ。

芸術は、人の歴史のうちもっとも原始的な、
私たちの理解を超えたものへのアプローチ。