Eno.639 窓部 日向

■ 窓部日向の独白



髪を切る理容師に国家資格が必要なのは、人体に刃物を用いるからだそうだ。

この島に流れ着く前の日常では、当然のように伸びては切り落とされる髪というもの。
指に絡むそれが、彼女の身体、その命の一部だと思うと、なんだかぞっとした。




髪を切ってくれと言われた。お前の為だと言われた。
彼女がこのためにハサミをこしらえてきたから、
彼女から預かったナイフはどうにも使う機会を見失ってしまった。

どうせ分かっていたのだろう。ハサミが無ければアレを使うと。




『勿体ない』とか『似合ってる』とか、気の利いたことは言わなかった。
思ってもいないことを言う必要は、きっと彼女にはないだろう。

俺と赤座の関係を取り持っているのは、お互いの無関心だ。






赤座花子という女は、ひどく気まぐれだ。
彼女の気まぐれが一刻も早く終わりますように、と願わずにはいられない。









「俺は別にどうでもいい」
「お前が楽しければ、別にそれでいいんじゃね」