Eno.32 ロジータ

■ 花火



そういえば、戦場の狼煙じゃねぇ、人々の娯楽としての花火を初めて見たのは、アイークに正式に伴侶になってくれと言った時に見たのが初めてだったっけな?
……いや、あの時は、花火が終わっちまっててダンスだけしたんだったか?

いかんな、曖昧だ。
あいつのことはしっかり覚えている自信があったんだが……器になって悪夢に魘されるようになってから、どうにも記憶があやふやになっちまってる。
ちょうど今くらいの時期だったことは覚えているんだ。
それがきっかけで、レプティスでもハロウィンをやることにしたからよ。
吸血種の俺たちがハロウィンパーティに行くのは馬鹿げてないか? とか揶揄ったのを覚えている。

……ああ、そうだ。
着いた頃には花火が終わっちまっててがっかりしてたんだったな、お前。
いじけたガキのようにしょんぼりしてよ……あんな顔されちゃ、ほっとけなくなるだろう?

──嗚呼。にしても、立派な花火だ。
あいつにも、見せてやりたかったなァ。




──汽笛の音が聞こえる。
遭難者から公爵に戻る時が近付いている。
束の間の自由とも、もうすぐおさらばだ。