Eno.472 ベル中尉

■ 陸軍中尉遭難記録 其の捌

楽しい時はいつだって早く過ぎ去り、終わってみれば残るのはただ楽しかった時の名残のみ。しかしこの島では、その名残すら残らない。
───海面が上昇しつつある。

わ。もうこんなところまで…



岩場で水を汲んでいた時もそうだったが、目に見えて水位が高くなっている。それも時が経つにつれてより顕著に。
森林に木材の採集に来たはいいが、、海抜の低いであろう場所が既に水没しており探索に苦労している。おまけに木材の量も少ないというおまけつき。これでは船の改築に量が足りるかどうか。

船そのものは完成しているそうでありますし、まあ何とかなるかもしれないでありますが…ああ、ここもぬかるんでいるであります。



海水混じりの泥に足を取られて満足に進めない。木の実が採れるのは幸いだが、欲しいのは木の実ではなく木材。全くないわけではない分、引き際を見定めるのが難しい。どうせ残り日数は少ない、とやや無茶な体力の消費をしている所であるが、それも限度を超えると拠点にすら戻れなくなる。

ふう…ああ、脱出キットの方はどうなっているでありましょう。今はサート殿が作っているのでありましたっけ。



後少しで材料が必要な数揃うとか言っていたか。何か力になりたい所であるが、即席医療セットを用立てたのでまあいいだろう、と割り切る。目下必要なのは木材、そして水。
水はいくらあっても困ることはない、この島に来てから変わることのない常識。今は雨水さえも有難い。
蒸留するのにも木材が必要なのは地味に厄介でありますな、と呟き、彼は森林の奥へと歩みを進めていった。