Eno.597 鉄原すばる

■ やり遂げるって決めたから

美大へ進むなら、初めから美術科のある高校を選べばよかったんだ。

劣等感とか、気の迷いとか、覚悟の足りなさとか、
先行き見えない将来に対する、家族への遠慮とか。

これといった明確な理由を絞ることはできない。
いろんな要因が少しずつ積み重なって、私はハテコーの普通科に来た。

美術の道を、諦めようとして、やっぱり諦めきれなくて。

中学校までは「クラスでいちばん絵がうまい子」でいられたけど、
今年になっていざ足を踏み入れた予備校で、私は高すぎる壁と相対したのだった。

たとえ現役合格が叶わなかったとしたって、
私が駆け上り、踏み越えてゆくべき課題は数え切れなかった。

二の足を踏んでしまった分、もう私には躊躇っている時間がないのだ。



作業に集中しようとする私にウィーが取り計らってくれた女子会で、
驚くほどあっさりと、失くしてしまった財布の話ができた。

これといった明確な理由を絞ることはできない。
いろんな要因が少しずつ積み重なって、私はみんなと悲しみを分かち合えた。

そして。

遠い汽笛と、ウィーの照明弾。
頭の真上に落ちたような轟音に、私は勝手に背中を押された気持ちになった。

エスポワール。
希望の名を持つ船に、応えるために。

花火が爆発するんじゃないかという恐怖と、うまく着火できない緊張と。
手を震わせながらも、かろうじて導火線に火を点ける。

眩暈も、煩悶も、苛立ちも、あの一発で全部ぶっ壊したかった。



……届いてくれたかなぁ。