Eno.140 レイ

■ よんじゅうきゅう

──空は曇ったままだ。

曇天の天気。青い空は、まだ見えない。

いつまでも湿っぽい空気が、体にまとわりついて、ベトつくような気がする。
海が近いのだから、仕方のないことだろう。

海が、近づいてきているから、余計に、仕方のないことだろう。
海水は、どんどんと、大地に近づいて。
島を、ゆっくりと、少しずつ、飲み込んでいこうとしている。

砂浜の散策は、海水によく足を取られるようになったのだろうし。
岩場も、滑りやすく、そして岩も、水に飲まれているのだろうし。
昔の船は、また、海の底へと沈んでいくのだろうし。
森林も、少しずつぬかるんで、水浸しになるのだろう。


俺たちの、居る島を、飲み込んでいく。
何日間を探した島を、飲み込んでいく。

嵐の時のように、それは激しいうねりではない。

大きくて、雄大な、それは、ぱくりと腹に収めるように。

緩やかで、やわらかい、うねりだ。


あとは、平たく凪いで、何もなかったかのように、平たくて、つるりとした海面があるだけなのだろう。

そこに島があったこと。
誰かたちが流れ着いたこと。
賑やかにしたこと。
そんなこと、思いもしないような、海原が、広がるばかりになるのだろう。


それは随分と寂しいことだ。

とても、寂しい。

みんなの中の記憶には、いつまでも残り続けるのだろうと、思うけど。だってなかなか、漂流なんてしないだろうから。

でも。

その舞台が。
その島が。

無くなってしまうのは、とても寂しいな。



─夢みたいだ。
◇ ◇ ◇


─ああ。


何も悪いことが、起きませんように。


例えば、急に雲がまた発達して、嵐に襲われるだとか。

そう言うことは、きっとない、現実なんだ。


夢とは違うんだ。


俺は今起きている。
しっかり、目が覚めている。
冴えてしまって、冷めてしまっている。



恐ろしいものが、追いかけてきている。
冷たいものが、大きく襲ってきている。




あんまり、─

誰かと─

昔からそう。



罵声が聞こえ─

白い部屋に連れてこられて、─




打った。




打─





──



使えなくなったので処分。

なんで、ナイフを持っていたんだっけか。




……あー、ダメなダメだ。こりゃ、ダメな方に思考が行っている。
これを考えるのは、あとだ。
もう少しだけ、あとだ。今から考えると、なーんにもまとまらないからな。
思い出したくないことを、思い出すな。忙しい時は、それはほっといても良いんだ。
今は、足りない木材とかの方が先だ。みんな頑張ってるんだからな、本当に時間がない。まーずい。
……いや、倉庫番だから動けないんだけどな。時間がもう少し溜まったら、変わってもらって最後の木こりになるかなあ……ラスト・木こり、みたいなの。