Eno.198 秋鹿 次

■ 机上の独白

 この島での生活は、次にとってとても良い思い出になりました。

 何しろお屋敷の外の世界を殆ど知ることもなく幾年も使用人として過ごしてきた日々とは、まるで違ったのですから。

 そして、もし救助があったとしてもそこへ戻れることも無いことは、十分に理解しています。
 私の罪状は「主人の殺害」。お嬢様の祖母、そして伯父に当たる人物を殺害しました。使用人として決してあってはならない、禁忌中の禁忌です。
 故に私は戻ったとしても即座に捕縛され、処刑台へと登ることでしょう。


……いえ、ここで嘘をつくのは辞めましょう。
 私は、秋鹿次は発見してしまったのです。お嬢様が用いたと思われる、大事にしまわれている毒入りの小瓶を。

 長らく私はお嬢様にお仕えしてきましたし、事が進めば跡継ぎの候補として上がっていることは私も承知しておりました。何より、最も近くで仕える者として敬愛の念すら抱いていたのです。

 幸い、お嬢様にも気付かれること無く私はその場を去り、当然のようにその死体は発見されました。
それなりに影響力のある家柄でしたから迂闊に外には出せないと見て、安易に警察を巻き込むこともなく私的に雇われた探偵が各所を探っていたようですが流石お嬢様、そんな疑いすら掛からずに捜査は長引き、迷宮入りをしようかと思われました。

 しかし、起きてしまったのです。二件目、しかも同じ手口での毒殺事件が。
 最初の時点で内部的な犯行であることはわかっておりましたから、今回も同じように探偵が雇われ、同じように捜査が入りました。そして、今回こそお嬢様が嫌疑を受ける可能性は十分に考えられました。

 故に、私は、してしまったのです。
 同じ毒を入手し、自首する旨の遺書を書いて暗い海へと身を投じる。
 そのまま消息を絶ってしまえば「下手人は使用人だった」となり、事件はそのまま解決の形を見せるでしょうし、恐らくその通りに進んでいるだろうと思われます。


 しかし結果として、ですが最後だけは上手くいきませんでした。
 泳げなかったはずの私は、気付けば流れ着いた島で料理をし、灯台を建て、救助を待っています。

 このまま戻ってしまったら、どうなるのでしょうか。
 いくつか案は考えられるのですが、そのどれもが決定打に欠けるのです。
 いっそのこと身分を偽り生きてみるのも、とも考えましたがいずれ足が付くことに変わりは無いでしょうし、かといって「秋鹿次が戻ってきた」となっては、多大なる混乱が齎されましょう。
 
 何より、次は……いえ、「私」は、お二人に「戻りましょう」と言ってしまった以上、あの地へ戻るしか無いのです。島と共に沈む訳にもいきませんから。

 刻一刻と救助が近づく中、私はその答えが出せずにいます。

 私は、次は、一体