Eno.122 ヨーデル・アブラホリ

■ アラビア語の日記 十四頁目

 
王というのは、国や民衆を差配する人の事だ。

そして、石油を差配するのが石油王なら、
世界のあらゆる原油鉱脈を詳らかにする僕たちは、
限りなくそれに近しい人間と言えるのかも知れない。

けれど、民衆に支えられる王は、
一方で、民衆に支配されていると言えてしまうように、
僕らもまた、石油によって支配され、縛られている。

もっと踏み込んで言えば、
石油の生み出す利益、利権、政治的影響力と、
そこから流れ出る紛争によって。

石油が世界の経済を動かす血液となった今、
原油採掘に必要なものは、とうの昔に優秀な目利きを置き去りにして、
既得権益を黙らす権力の方へと移ってしまった。

その権力を併せ持っている父と違って、
僕らは莫大な財宝が隠された宝物庫を前にして、
鍵も持たずに立っている金庫番のようなものだ。

そしてだからこそ、
アブラホリ家には序列に関わらず目利きの秘奥が授けられる。
例えそれが何者かによって奪われても、躊躇わずに切り捨てられるように。

家族の中で末席に位置する僕は、
父の手札の中にあって、
最も切りやすいカードとして収まらざるを得なかった。

それとも、僕が目利きとして役立たずだったなら、
元のように穏やかに暮らせたのだろうかと、
今更ながらに思う事もある。