Eno.108 アノーヴァ・ピィヴァル

■ 《55: アノーヴァ・ピィヴァルの日記 - 記憶・8》

オルタナリアに連れてこられる勇者は、子ども―――私がサピエ人族だったらそのくらいの歳になるだろう、という子たちばかりだ。
それも……戦争か何かで家族を失ったり、周りにいじめられていたり、そこまでは行かなくても居心地の悪さにさいなまれているような……

悪い言い方をすれば、勇者はミーミアに願いを叶えてもらえることをエサにバケモノと戦わされる存在とも言える。
そのためには、なにか切実な願いを持っている者でなければいけないという考え方はできるだろう。
しかし、なぜ子どもなのか……

……タカアキもそうだった。
私のことを気づかってはくれるのに、私の方からは踏み込ませず、心を閉ざす。
危機に陥っても、勇気があるというよりは、どこか自分が生き残ることに執着がないだけに見える……そんな子。

最初は、ペタラ姫を失ってしまったせいだと思っていた。

タカアキは、ハナの国に現れ……短い期間で姫御付きの庭師になった。
草花を愛するタカアキにとって、ハナの国はまさに理想の世界だったのだ。
……食べるのも寝るのも忘れて、城の植物の観察と世話に没頭するタカアキを、ペタラ姫はずいぶんとかいがいしくお世話したらしい。
タカアキもさすがに申し訳なく思ったのか、生活面はきちんとするようになっていったとか。
ペタラ姫がディナイア教団の者たちにさらわれた時、真っ先に連れ戻すと言い出したのもタカアキだと、シールゥが言っていた。
けれど……

彼は草木や花を、他のなによりも愛していた。
それなのに……例えば、そこに心を認めるようなこと―――よくいるだろう、お花に親しげに語りかけながら水をあげたりする人―――そういうのは一切しなかった。
ペタラ姫のもとでこんな風にぼやいていたこともあるという……自分は木と間違えて、ニンゲンに産まれてしまったのかもしれない、と。

ずっと迷宮に閉じ込められていた私は、タカアキがどうしてそんな風にふるまうのかわからなかった。
心を開いてほしかった。あなたは木じゃなくて、ニンゲンなんだと、伝えたかった。
そして、私を受け止めてほしかった……

……それは、他にすがれそうな相手を見いだせなかった私の、ただの勝手にすぎないのだろうか。