Eno.108 アノーヴァ・ピィヴァル

■ 《56: アノーヴァ・ピィヴァルの日記 - 記憶・9》

勇者は、オルタナリアの民にはない力を持つ。
始祖竜の力を借りられる、というのもそのひとつだが……加えて一人ひとりが、勇器(ゆうき)と呼ばれる専用の武器を授かるのだ。
例えばタカアキの勇器、グリーン・サムは小さなスコップの形をしていて……何かを掘ることでそこから植物を生み出し、使役することができる。

ヒロユキの勇器は、イマジン・ペンシルとイマジン・ノート
ペンシルによってノートに描かれたモノは、ほんの短い間だけ現実になり、使い手が思うままの力を発揮する。
似たような物を持つ勇者は、過去にもいた。
けれど……

絵に限らず、芸術とは自分にしかわからないのかもしれない感覚に気づいて、どうにかして世の人々と分かち合おうとする行為ではないかと思う。
伝えたい美しさや想いがあるから、人は絵を描くのだ。
そう考えれば……ヒロユキの勇器は、自分の想いを強引に世界につきつける力、ともとらえられるのかもしれない。

ヒロユキの心のなかには一体何があったというのだろう。

これもシールゥから聞いた話だけど、ヒロユキが否徒を一撃のもとに撃退してみせたとき、何かが描かれた、という。
何を描いたのか聞こうとしたら、はぐらかされた……というか、本人も覚えていなかったというけれど。
なにか、封じ込めているものがある。このままでは、危険だと―――

……もう、思い出している。
テツの国の街を吹き飛ばした、あの力のほとばしりは……ヒロユキのものだった。

そして、彼は……。