■ 船
彼らは荷物と食糧をまとめた。
彼女はずっと少年の手を握っていた。何故ならば、手を離したら少年がいなくなる気がするからだ。
穏やかな海はどこまでも広がっていた。
こんな小さな船で、本当に家に帰れるのだろうか。しかし、そんなことは考えていない。
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どれくらい漕いだのか、彼女は眠ってしまった。
目覚めると空はピンク色で、すべてが幻想的に見えた。
船も海の上ではなく、葦の生えた川のようなところに居る。周りの葦が風に揺れていた。
「ここまで。」
「僕はそろそろ他の船に乗るよ。これからは僕の一人旅だ。」
「空太君、何を言ってるの」
少年は返事しなかった。
彼は立ち上がった。そばに別の小船が漕いでくるのが見えたが、漕いでいる人が見えない。
「この先にはさらに多くの苦難があるだろうと思うけど……」
「大丈夫、あなたならなんとかなる。あなたが強い子ってことを僕は知っているから。」
「最後にまた会えてよかった。」
「さようなら。」
「 」
少年が彼女の名前を呼んだ。
「まさか、あなたは……!」
子供の頃に事故で亡くなったもう一人の兄がいたことを思い出した。
封印されていた記憶が少しずつ蘇ってきた。ほんの僅かな思い出だけだが。
そしてすべてが途切れた。
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