■ 旅立つあなたたちへ、感謝とともに
自分は今、沈みゆく島に作られた拠点の中で、これを書いています。
この七日間は本当に賑やかで、楽しい日々でした。
ここにやってきた方々は、道具を使い、いろいろなことを行います。魚めもそれに倣い、こうして記録をつけてみようと思ったのです。
とはいえ、この水位も上がり沈む寸前の今、多くのことは残せません。
ですから……この島にいらした方々について、少しずつ語りましょう。

甘い香りを漂わせる、美しい黒いヒレを纏った方。常に周りを見て必要な行動をなさっておりました。
二つの姿を持っているようですが、驚くことではありません。タコなんて千変万化でございますから、似たようなものでしょう。

背中に大きくふんわりとしたヒレを携え、頭上に円状の発光器を持つ方。
少々危なっかしいところもありますが、他者のために惜しみない努力を続けていらっしゃいました。

金の鱗に赤いヒレを纏う、豪快ながらも丁寧な所作を持った方。
嵐の日、いつの間にかびっしょりと濡れて帰った時は自分も驚きました。
その後結局、自分も同じように濡れ魚になりましたが。

金の鱗が眩しい、明るいお方。
道路や倉庫作りなど、土木工事をよくなさっていた印象がございます。
彼のはきはきとした元気な雰囲気に救われた方もいらっしゃるのでは無いでしょうか。

黒い鱗の、少々くたびれた印象のお方。
あの少しどんよりとした顔色……もしや、深海からおいでの方でしょうか。
ともすれば体調がすぐれないのも当然でございます。無事元いた場所に帰れることを僭越ながら祈っております。

彼女はどうも他の方々とは少々違って見えます。ウミウシというのでしょうか……この辺りでは珍しい種族でしょう。
小柄で愛らしく、ムードメーカーであり、心から仲間を心配する優しき心をお持ちの方です。
これまた珍しく、何故か貴金属を好んでらっしゃるようです。これも種族柄でしょうか?

金の鱗を持った……金の鱗、多いですね。自分が知らなかっただけで案外多いのかも知れません。どうやら皆遠い海から流されてきたそうなので、皆同じ地域から来たのかも知れません。
彼はこの環境に慣れていないようでしたが、それに屈することなく必死に活動を続け、フラフラになりながらもこの生活に貢献なさっていました。
その力強さには自分も脱鱗いたします。

全身真っ白な鱗に包まれた、誰より小さな体でありながら他の方と同じくらい活動的な、パワフルな方。
やはり印象的なのはキノコですね。彼はキノコが相当お好きなようで、頻繁に食べていらっしゃいました。
しかし、どうも他の方には危険な行為と見做されたようで、よく鳥籠にしまわれておりました。自分は個性の一つと思いますが……皆、心優しき魚たちですね。

またまた金の鱗の……いや、彼女のものはヒレでしょうか。長くひらめき、風に揺蕩う美しい方。
活力に満ちた明るいお方。よく伐採など体力を消耗する仕事をされておりました。水着の件はお世話になりました。あなたの使っていたものとはつゆ知らず……申し訳ありません。
魚めは存じております。嵐の日、暗躍なさっていたあなた。もしかしたら、運命の分かれ道だったのかも知れませんね。

灰色の鱗を纏い、白く細長いひげを頭部に持った方です。
文句を言いながらもきちんと仕事をこなし、周りに貢献していらっしゃいました。所謂ツンデレという種族でしょうか。
自分はよく分かりませんが、サイコロを使った遊びが盛り上がっていたようですね。

彼女も金の鱗を持った方です。ヒレの一部が珍しい形状をしていらっしゃいますが、特に不便は無い様子。
小柄ながら凄まじいエネルギーを秘めていらっしゃいます。力仕事を積極的に行っていた印象がありますね。
よく布と羽毛の塊を抱きしめている姿が見られました。元気に見せているだけで、本当は寂しがりやな一面があったのかも知れません。
自分には難しいですが、彼女に寄り添える方がいることを願っております。

黒い鱗に覆われた、どこか飄々とした雰囲気のお方。
周りの方々は彼の頭部を”ヘッドホン”と呼称しておりました。
そのような器官は聞いたこともない……やはり、母なる海はどこまでも広いですね。
よく喋るわけではありませんが、周りから一歩引いて見守っている……そんな印象が残っています。

全身真っ黒……かと思えば何だか光っているような。不思議なお方です。彼?もまた深海からいらしたのでしょうか。黒いのも光のも深海の方に多い特徴ですからね。
彼も自分と同じく声帯は持っていないようで、お声を聞いたことはございません。
しかし他者に貢献したい!という強い思いを魚めは確かに感じました。あなたはきっと自分と近縁種なのかも知れませんね。

嵐の日、いらした方ですね。褐色に白の混じった鱗のお方。
積極的に人と関わろうとはなさっていませんでしたが、何かと周りを気にして行動されていたようです。
彼もまた”ツンデレ”の一族かも知れません。

夜の砂浜のような色合いの鱗のお方。
彼も周りをよく見ていて、その時その時足りない仕事を積極的にしていたように思います。
周囲を気遣う発言が多く、清い心をお持ちの方だと感じました。

鮮やかな夕日色の鱗に包まれた、他の方とは変わった姿のお方です。
よく何らかの板と向き合っておられましたね。一人静かに板に向き合う……クールで素敵な方でした。
あれ、何だったんでしょう。綺麗な貝殻とか並べてたんでしょうか。

他にも、多くの方がいらっしゃいましたが……やはり書ききれそうにありませんね。
もう床に水が染み込んで来てしまいました。
ここは孤島といえどそれなりの広さがありますし、活動時間の違いもあり出会わなかった方もいるでしょう。
また、この島で力尽きた方も。残念ですが仕方ありません。母なる海の愛は、我々には少々大きすぎますから。
帰るべき場所があるのなら、己が身を糧にしてでも助けたい。その一心で自分は皆さまの前へ出ました。
食料にされないどころか、仲間として見ていただけるとは思っていませんでしたよ。
(少々過剰な扱いをされていた気もしますが……)
たとえ出自が違えど、姿が違えど、生き方が違えど、皆一様に母なる海の元に生まれた兄弟にございます。
これほど愉快な日々はこれまでの魚生にはありませんでした。
そして、きっとこれから先にも無いことでしょう。
これは自分が母なる海の元へ戻り、また別の兄弟の糧となり、真に還るその日までの宝物にさせてください。
皆さまが無事帰られるよう、幸多からんことを、母なる海と共に願っております。