■ 陸軍中尉遭難記録 其の拾
潮が満ち、時が満ちる。島と別れを告げる時。
皆と出会った砂浜、食料や木材を潤沢に得られた森林、様々な道具の素材を拾う場となった岩場、脱出の鍵となった漂着船、そして自分達の手で増改築を繰り返した拠点。どれをとってもかけがえのない思い出。例えそれらが、数刻の後には海の底に沈むとしても。

この景色も、見納めでありますか。
最初は未知の孤島だったここも、今では非常に居心地の良い場所と化していた。環境自体はそこらの島とそう変わらない、ということはやはり仲間の存在が大きいのだろう。
世界を超えて出会った仲間達。初めはうまくやっていけるか少し不安だったが、今では別れを惜しむほど。正直、今でも迷い通しである。
この7日間が彼に与えた影響は、それほどまでに大きい。

最初は一刻も早く帰る事を目的としていたでありますのに…本官も丸くなったでありますなあ。

しかし…ただ帰るには、土産が何もないでありますね。
それは物理的なものではなく、さりとて精神的なものでもない。財宝を持ち帰ったとて戦況には大した影響は与えず、心持ちが上がった程度で勝てるのならこれほど苦戦していない。
技術。まだ見ぬ革新的な技術。量産の利くものではなくても、せめて彼自身が強くなってから帰らねば生き返った甲斐がないというもの。
それはきっと、この世界で手に入るものではない。

……よし、決めたであります。