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「急げ急げ……」
拠点で荷物をまとめ、砂浜へと向かう。
既に膝の高さまで浸水しており、ジャブジャブと音を立てながら走る。

「着いた……よし、荷物を乗せたらすぐに出発を……」
だが砂浜は既に海に飲み込まれており、
そして……そこにカリスマセレブオールイン号の姿は無かった。



「……。
そういえばちゃんと固定してなかった気がする……」
流されたのか、沈んだのかは分からない。
いずれによ別の脱出手段を用意しなければならない。

「どうしよう、浮き輪もイカダに付けちゃったし……。
今からまたあのデカい船へ探しに……いやでも……」
焦りながら思案する。
だが考える時間は与えられなかった。
遠くから音を立てて大きな津波が迫ってくるのが見える。

「津波……? そんな……」
反射的に逃げようとするが、この小さな島に逃げ場など無い。
きっと島のどこにいてもこの津波に飲み込まれてしまうだろう。

「……」

「……」
もはや出来る事は何もなかった。

「……ギャンブルで借金を増やさなければ漁船に乗る事は無かった。
漁船に乗らなければこの島に流される事も無かった。
……全部自分が招いた事だ」

「でも……」

「でも最後に……」

「今月入るパチスロの新台……遊んでみたかった……」
静かに目を閉じて、そして津波に飲み込まれていく。
* * *
真っ暗な海に身体が沈む。

何とか浮上しようと試みるがどちらが上か下かさえも分からず、
ただじたばたともがくだけになってしまう。
やがて息が続かなくなり徐々に意識が朦朧としていく。

(……)
苦しさを他所に、脳裏にこれまでの様々な記憶が浮かんでいく。
最近のちょっとダメな日々の記憶から少しずつ遡り、
空に浮かぶ島の記憶、砂漠と廃墟の地で賭博をした記憶、
別の大陸で冒険者をしていた時の記憶、忍者の真似事をした記憶、
野球をした記憶、サボテンに分からされた記憶、
それから、老人との旅の日々の記憶。

(……色々あったな……)
ふと微かに、老人の声が聞こえた気がする。

(……じいちゃん……?)
声の方に目を向けると微かに光が差していてキラキラしていた。
そこへ向けて手を伸ばす。海上を目指そうとしたというよりは、ただ老人の声の下に行きたくて。
だが身体は逆の方向へと沈んでいく。

(ダメだ……遠ざかっていく……)
真っ暗な海の底へと、まるで引きずり込まれるかのように。

(……ああ、そうか……)

(きっとじいちゃんがいるのは天国で、
おれが向かうのは地獄なんだ……。
借金を抱えたままだから……じいちゃんの所には行けないんだ……)
失意に心が歪み、じわりと涙が溢れる。だがそれすらも大海に掻き消え。
そのまま静かに意識を失っていく。

(ごめん、じいちゃん……)
その直後、大きな海流が発生し彼の身体を海上に向けて強く押し上げる。
まるで死ぬ前にちゃんと完済しろと言わんばかりに。
* * *
いつの間にか、彼は自身の作ったイカダの上に寝ていた。
咳き込んで海水を吐き出し、ゆっくりと意識を取り戻していく。
そして―――