Eno.244 ノイグエント

■ !

 

「急げ急げ……」



拠点で荷物をまとめ、砂浜へと向かう。
既に膝の高さまで浸水しており、ジャブジャブと音を立てながら走る。


「着いた……よし、荷物を乗せたらすぐに出発を……」



だが砂浜は既に海に飲み込まれており、
そして……そこにカリスマセレブオールイン号の姿は無かった。






「……。
 そういえばちゃんと固定してなかった気がする……」



流されたのか、沈んだのかは分からない。
いずれによ別の脱出手段を用意しなければならない。


「どうしよう、浮き輪もイカダに付けちゃったし……。
 今からまたあのデカい船へ探しに……いやでも……」



焦りながら思案する。

だが考える時間は与えられなかった。
遠くから音を立てて大きな津波が迫ってくるのが見える。


「津波……? そんな……」



反射的に逃げようとするが、この小さな島に逃げ場など無い。
きっと島のどこにいてもこの津波に飲み込まれてしまうだろう。


「……」



「……」



もはや出来る事は何もなかった。


「……ギャンブルで借金を増やさなければ漁船に乗る事は無かった。
 漁船に乗らなければこの島に流される事も無かった。
 ……全部自分が招いた事だ」



「でも……」



「でも最後に……」



「今月入るパチスロの新台……遊んでみたかった……」



静かに目を閉じて、そして津波に飲み込まれていく。



 * * *



真っ暗な海に身体が沈む。





何とか浮上しようと試みるがどちらが上か下かさえも分からず、
ただじたばたともがくだけになってしまう。

やがて息が続かなくなり徐々に意識が朦朧としていく。


 (……)




苦しさを他所に、脳裏にこれまでの様々な記憶が浮かんでいく。

最近のちょっとダメな日々の記憶から少しずつ遡り、
空に浮かぶ島の記憶、砂漠と廃墟の地で賭博をした記憶、
別の大陸で冒険者をしていた時の記憶、忍者の真似事をした記憶、
野球をした記憶、サボテンに分からされた記憶、
それから、老人との旅の日々の記憶。


 (……色々あったな……)



ふと微かに、老人の声が聞こえた気がする。


 (……じいちゃん……?)



声の方に目を向けると微かに光が差していてキラキラしていた。
そこへ向けて手を伸ばす。海上を目指そうとしたというよりは、ただ老人の声の下に行きたくて。
だが身体は逆の方向へと沈んでいく。


 (ダメだ……遠ざかっていく……)



真っ暗な海の底へと、まるで引きずり込まれるかのように。


 (……ああ、そうか……)



 (きっとじいちゃんがいるのは天国で、
 おれが向かうのは地獄なんだ……。
 借金を抱えたままだから……じいちゃんの所には行けないんだ……)



失意に心が歪み、じわりと涙が溢れる。だがそれすらも大海に掻き消え。

そのまま静かに意識を失っていく。


 (ごめん、じいちゃん……)



その直後、大きな海流が発生し彼の身体を海上に向けて強く押し上げる。

まるで死ぬ前にちゃんと完済しろと言わんばかりに。



 * * *



いつの間にか、彼は自身の作ったイカダの上に寝ていた。
咳き込んで海水を吐き出し、ゆっくりと意識を取り戻していく。
そして―――