■ 満ち潮のとき
嵐の最中のひみつきちは、びくともしなかったけど、風が止んだあとに一番最初に組み立てた所が崩れてた。
しっかり耐えきってから倒れるあたりに、なんか男気を感じなくもねーなー。
なんせひみつきちだしな!
嵐のあと、船が漂着してた。
風つよかったしなー。
救助船ってやつじゃなくて、無人の船だったらしい。
おれはすぐに行かなかったけど、すももとススキが中から使えそうなもの沢山ひろってきてくれてた。
島の中じゃ見つからなかった珍しいものも結構あって、作れるものが更に増えたし、倉庫がいっぱいになって嬉しい悲鳴ってやつだったなー。
合間でいつの間にか、すももが身軽になってたり、道路つくってたりもした。
親分のおやぶんスタイル、結構かっこいーぜ。
っても、面白いことばっかりでもなく、急に海の水が増えて来た。
探索とか罠を見にいったススキとすももが、砂浜と岩場が狭くなってたー……って、言ってたその数時間後には、森のほうまで海水がじわじわ染みてきてる感じがした。
これがたぶん、『さいしょの便箋』に書いてあった、海面上昇ってやつなんだろう。
7日くらいで救助船が通る、とも書いてはあったけど。
浮かぶものがあった方が、何にもないよりはいいんじゃねーかなーって思ったから、倉庫にあった資材でイカダつくったり。
でも、どうせなら、ちゃんと船っぽい形にしたいよなー!
って話になって、みんなの最新目標が船づくりの材料あつめになった。
足元じゃぶじゃぶしてきてたけど、無事に材料は集まった。
布とか石とか金属とか、それ以外の資材は、ススキとすももが殆ど用意してくれてて、おれは木ばっかり切ってたけど、それでもボートくらいのはできた。
親分の命名『くじらごう』。
そっから更に資材あつめて、小さいけどちゃんとした船の『スーパーくじらごう』になった。
合間にススキが窯でパン焼いて、すげーうまいミートクラブハウスサンドつくってくれた。
すげーうまいんだよ。
すげーうまかったんだよ!
気づいたら消えてた。なんで消えたんだ。って一瞬本気で思った。おれが食ったから無くなったんだけど、それ認識できないくらいうまかった。
どうして無くなったんだ。正気に戻った今でもやっぱり思う。だってすげーうまいよ。
女神の属性に、泉と狩りに恵みまで加わって、ススキの神々しさが留まることをしらねー勢い。
そんで、スーパーくじらごうの進水式はおれがやっていい、って二人が言ったから、拠点でやることにした。
……んだけど、建ててみたらでっけーもんで、外から乗るのに別の道具が要りそうだった。
急いで資材あつめに走ったけど、潮の満ちが早くなってきてるみたいで、全員分は難しかった。
揃って乗りたかったんだけどなー。
そんでも、遠くで笛みたいな音がしてる、って耳のいいススキが言ってたし、救助船自体は、近くを通ってるはずなんだよなー。
こんな時でもすももはしっかり親分してて、狼煙を更にいっぱい上げてくれてた。
まさしく親分の建てたテラッシーいちごうもあるし。
たぶん気付いてくれるはずだ。
全員一緒には難しいけど。
ひとりずつ、乗ったり降りたりはできるから、スーパーくじらごうに乗り降りして、甲板からの眺めを楽しんだり。
あとは、酒飲みながら、待つしかねーなー。