■ ぜろ、もしくはれいとも つまり、おわりのはなし
なんか、ものすごいたくさんのものをたべたし、たくさんのひとたちがはなしていたし、ひさびさにさけをのんだ。
これがさいごのひだというのは、なんだか、へんなかんじだ。
あしたも、あさっても、こう、さわいでそうなのにな。あいかわらずきのこだったし………ひどいありさまだったなあ、あれ。とちゅうからどっかにひともきえてたしな………にげられたか。
でも、もうかえるじかん。ふねもきているしな。
まあ、ふねにいるあいだは、みんなといられるわけだから。
あんがい、さびしくないふなたびになるだろうなあ。
かきおきのところに、いいことばがかいてあった。
「またあおう」
…いいことばだ。
ああ、またあおう。しまのみんな。
またな。
◇ ◇ ◇
─さてさて。書き終わる。
…俺って字が汚いんだよなあ。夢の中で全部、一通り文字は覚えたが。
そうだな、夢だ。
夢で、飯を食い。
夢で、学びをして。
夢で、平和な青空を練り歩き。
それら全て、最後には、無茶苦茶な悲劇を突きつけられて、目が覚める。
その夢こそが、現実だと。思い込んで、ちょっとしてから襲いかかる。
精神が沈み込んで、浮かび上がるのを拒否するくらいに。
それこそ、夢としか思えないようなことが、蝕むのだ。
目が覚めたら、枷を外されて、野に放たれるのだけれど。
それも結局観察されていて、腕には罪人の証があって。袖のある服を着ることは許されず。
誰にも許されず。
どうにもならないこと。
薬の依存性。
飲まれて、結局、またナイフだ。
被験者。
それの繰り返し。
いやあ、クソ野郎。これでよく島で生活できたもんだな。
だから薬はダメだって言っていたんだな。うん。ダメだ。こうなってはいかんだろ。みんなも薬はダメ、ゼッタイ!だぞ。
キノコは…そうだな。みんな節度を守っていたから、本気で中毒になってたわけでもあるまいし。なってたら俺が地の果てまで追いかけて抜けるまで見張ってるからな。嘘だけどな、流石に。俺も少し楽しんでいたし……忘れていたのが幸いしたのかもしれないな。
あとは、周りが、どうにかしようとしていたこと。…最後の宴だって、逃げて行った人たちがいただろう。良識ある人がいるなら、きっと大丈夫だな。
──さて。
もうそろそろ、波が押し返してくる時間だ。
…ここの時間の進みが遅かったことで、おかしくなっていたようだが。
抜けたと、思ってたんだがな。
──な。
後から後から、冷たいものが追いかけてくる。
瞼の裏に映る風景は、やはり醜いもので。
これは明確な恐怖だ。
夢見心地、そこの中にずっといさせるための。
膨れ上がって、それは、大きく膨れ上がって。
飲まれる。
飲まれると、視界が揺れて、何もわからなくなり。
ただ、心が、沈んで暗くなっていく。
今話している俺は、俺でなくなり。
生き物の、嫌な部分が剥き出しの、それになるのだろう。
簀巻きにされて、沈み込んでいた時が、冷たいもので肺になっていく、あの奇妙さが、どうりでしあわせだったわけだ。
それはなって明確な終わりだろう。
明確な終わりは、幸福な夢だったんだよ。
それだけを求めて、ずっとナイフを振り回していたぐらいに。
……だったんだけどなあ。
─ここは幸福な夢だった。
夢ではなくて、現実の、夢だった。
夢をみる。眠りの中ではなくて、絵空事を描く、夢を描く。
例えば、鉛筆で想像したことを絵にするように。
あれだ。実現する方の、夢だ。夢想ではない……
…上手く言えないな。
とにかくだ。
俺の夢は、そう。
…誰かと、普通に暮らしてみたい、というものだ。
普通の生活をしてみたい、ともいう。
…普通って、色々あるし。島に流されてるんだから、普通も何もないけどな。
誰かと食卓を囲むこと。
足を引っ張りあったり、無駄に蹴落とすことをしないこと。
誰かと、なんだかよくわからない馬鹿騒ぎをすること。
誰かを心配すること。
そういうのが、ある生活。
それが、俺の描いていた夢。
他人に映像として見せれば、つまらないと罵声を浴び続けた夢だな。
そこから、綻んで、きっと夢は終わっていっていた。
あっさりいうなら、悪夢だった。
ここは、そうはならなかった。
みんなで作り上げた、希望に向かった、現実の日々だった。
……暖かいなあ。
写真を出し合って、楽しそうにしている人たちを見て、思わず、嬉しくなって、笑って。
─ここで眠りたいなあ、と思ってしまった。
みんなの思い出の土地。
1人、沈めるのは、寂しいこと。
ついでに俺も眠ってしまいたかったし。
副作用が襲って来ない前に、終わりたい。
…まあ、藻屑になるかもしれないけど。埋まったりしない限りは、島から流されてあーあ、だろうな。
それでもいい。そもそも、藻屑になる運命だ。簀巻きにして沈められてたわけで。
しあわせなゆめを、みて、ねむらせてほしい。
また、がないのは、ごめんな。
これだけは、譲れないんだ。
だから、大切に写真は持っておく。
…大切に、持っておく。これだけは、海に沈んでも、離しはしない。
さようなら、すてきなしまのひと。
しんあいをこめて。ほんのすこしのきずなをむすべたと、おもっているものより。
よきたびを、おくれますよう。
よきゆめがありますよう。なんてな。
◇ ◇ ◇
ロープ持って現れたやつがいた。
そんな馬鹿と目を疑ったが、実際そうらしい。
全員で帰るつもりのようで。
…これは、仕方ないな。乗るしか、ないみたいだ。
その顔が、あまりにちょっと。見るに耐えなかったから。
ありがとう、と、言葉を言うべきだったんだけどな。