Eno.649 リザベラ・レイモンド

■ 新しき船出

あまりに忙しすぎて、書き留めるのを忘れていたわね。
この島もついに、終わりの時が来たわ。
この数日、わたくしたちは寝る間も惜しんで島を出る方法を───船を作ることを、検討していた。

その余りの膨大な作業量と必要物資の多さに最初は眩暈がしたわ。
到底、不可能だと思っていて、助けを求める方向を選ぼうかと思っていた。
天運に賭けた方がよっぽど確実なのではないか、と。

けれど、団結して事に当たって……何とか、船は完成した。
これはきっと、わたくし達だけでは到底なしえなかったこと。
姿は見えねど、共に生きた方に、心からの感謝を。

その後の脱出用具作り。こちらもかなり難航したわ。
非常食を作るのに必須の香辛料がなかなか見つからなかった。

わたくしは最悪の場合はこの島に残ろうと思っていた。
常に殿を務める、それが一族を纏める家に生まれた者の定めだから。

なのに皆、乗らないものがいるのならば残る、と言ってくれて、嬉しかったわ。
そして必要なものがようやく揃った時、どれだけ天に感謝したか。

船が完成した時、そして乗り込めるようになったとき、花火というものを打ち上げたわ。
凄い音と光の洪水だった。
あんな光景、初めて見たわ。すぐに消えてしまって勿体ないと思ってしまった。
美しいものほど、儚いのね。

ジョザイアが作ってくれたカレーという食べものも初めて食べたわ。氷の果実掛けもおいしかった。

世界には、わたくしの知らないものがまだまだあるのね。


わたくしは船のなかで、今この物語を書いている。
この島で手に入れた品物と思い出に囲まれて。

初めての試練は、恐らくこれで終わりでしょう。
次にわたくしが受ける試練はどのようなものなのかしら。


足元を照らして何度も危ない目に逢うのを防いでくれた赤く燃える華。
わたくしが祈りをささげた灯り。

それを見ていると、どんな困難な道でも照らしてくれると信じられるわ。
願わくば、次の試練でも、同じように良きヒトに巡り合えますよう。

フィオ
ウェプトン
ダムス
ジョザイア
フロス

そして名も知らぬ方へ。

わたくしたちはこの島へともにナガサレ、共に生きた。
そして、これからも。
貴方達との記憶を胸に、わたくしは試練を果たして生き続けるわ。

砂浜に落ちていた、もう時を刻まぬ機械。
この島で生きた日々を、忘れ得ぬ記憶として、これに託しましょう。


どうかみな、健やかでいて。



リザベラ・レイモンド