Eno.145 小森山エレサ

■ そして日々は続く

船が行く。ゆらゆら揺れてどこまでも。
一人、一人と降りていったような気がするし、そうでもないような気がするし。
そして自分の番だ、と思って、名残惜しさと共にみんなにまたねと言って、船から降りて――。

——そうして、まばたきしたらお家のベッドの上、
あの短い日々は夢だったのかなと思うのでした……。


……なんてことは全然なく。
めちゃくちゃ縫製が丁寧なメイド服を着た小森山エレサは、家から徒歩1時間の海岸でやたら物の入ったそりと一緒に呆然と突っ立ってるところを、たまたま車で通りがかったお友達の兄に発見されたのである。

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「……ということがあったのですわ!」
「ふーん」
「反応うっすいですわね……まあ、いいですけど」

人の少ないフードコートで、エレサの友達――縁本あかりは、ポテトをつまみながらエレサの"冒険譚"をぼんやりと聞いていた。
あかりはエレサの言動(というか、だいたいの物事)に動じない数少ない人物で、突拍子もない話もへーそうなんだ、よかったねぐらいに薄めてくれる人間である。
そのフラットさが、エレサは嫌いではなかった。

「……あかりのお兄様にはご迷惑をおかけしまして……」
「ああ、いーのいーの、お兄ちゃんだし。ほっとくほうが無理無理」
「でも送っていただいたのだし、何かお礼などしたほうが」
「んじゃ今度その『島』で作ったハーブティーとかあげればいいよ、持ってきたんだよね?」
「え、ええ、それくらいでよければ……」
「あとメイド服にドキドキしたって」
「ええっ!?」
「嘘だけど」
「……もう!」

ああ、他愛も無い話をして、日常に帰っていく。日々は続いていく。
エレサの部屋にはあの時のおみやげがいくつも置いてある。
だから、きっと忘れることはない。もしも忘れてしまっても、思い出はそこに。