■ 夏の終わり
彼女は港で海に落ち、救助された。
病院で意識不明のまま何日経って目が覚めた。

「なんて迷惑かける奴だ」

「…………ごめんなさい」

「……フン」
なぜか兄はいつもよりひどく不機嫌だった。
帰り道に彼女はあることを思い出した。

「あの…最近急に思い出しましたけど、もう一人のお兄ちゃんのことを。」

「……」

「そういえば、今日があいつの命日なんだっけ。お前が言ってこなかったら忘れていたよ。」

「………………」
今田は、もう忘れていた、弟を突き落とした時のことを思い出した。恐らくあれが彼の初めての殺人で、一番うまくいったの殺人でもあった。

「死んだ人のことを考えても仕方がない。あんな昔のこと、もうとっくに忘れてたんだよ。」
その言葉にはあまり感情がなく、むしろどこか気楽で得意そうに話していた。

「そんな目で見るな。あいつのことは忘れた方がいい。死んだ人のことばかり気にしていても意味がない。」

「それとも、お前も奴のようになりたいのか?
…………消えたいなら手伝ってあげるよ」

「……うう」

妹はついに抑えきれずに泣き出した。

「……チッ」
今田は妹がなぜ急に泣き出したのかわからない。
しかしこの状態では泣くなと言っても、置き去りしても面倒と思ったので、仕方なく彼女の腕を掴んで強引に別の場所に移動した。
しばらく泣いていて、妹はようやく落ち着いた。

「……お兄ちゃん、コイン、一枚くれます?」

「急にどうしたんだ?」
そう言っても、あまり追及する気はなかった。ただ少し面倒臭そうに財布から一枚のコインを取り出して渡した。
彼女はコインを手のひらにぎゅっと握り締めた。

「死んだお兄ちゃんは……どんな人でしたか?」
今田は一瞬ためらった。嫌なことでも思い出したようだ。

「……腹立つくらいお人好しな奴だ」

「家に帰ろう」

「……うん」

おわり
おまけ