Eno.217 今田

■ 夏の終わり

彼女は港で海に落ち、救助された。
病院で意識不明のまま何日経って目が覚めた。

「なんて迷惑かける奴だ」


…………ごめんなさい


「……フン」



なぜか兄はいつもよりひどく不機嫌だった。





帰り道に彼女はあることを思い出した。

「あの…最近急に思い出しましたけど、もう一人のお兄ちゃんのことを。」


「……」


「そういえば、今日があいつの命日なんだっけ。お前が言ってこなかったら忘れていたよ。」


「………………」




今田は、もう忘れていた、弟を突き落とした時のことを思い出した。恐らくあれが彼の初めての殺人で、一番うまくいったの殺人でもあった。


「死んだ人のことを考えても仕方がない。あんな昔のこと、もうとっくに忘れてたんだよ。」


その言葉にはあまり感情がなく、むしろどこか気楽で得意そうに話していた。

「そんな目で見るな。あいつのことは忘れた方がいい。死んだ人のことばかり気にしていても意味がない。」


「それとも、お前も奴のようになりたいのか? 
 …………消えたいなら手伝ってあげるよ



「……うう


妹はついに抑えきれずに泣き出した。


「……チッ




今田は妹がなぜ急に泣き出したのかわからない。
しかしこの状態では泣くなと言っても、置き去りしても面倒と思ったので、仕方なく彼女の腕を掴んで強引に別の場所に移動した。




しばらく泣いていて、妹はようやく落ち着いた。

「……お兄ちゃん、コイン、一枚くれます?」


「急にどうしたんだ?」


そう言っても、あまり追及する気はなかった。ただ少し面倒臭そうに財布から一枚のコインを取り出して渡した。



彼女はコインを手のひらにぎゅっと握り締めた。


「死んだお兄ちゃんは……どんな人でしたか?」






今田は一瞬ためらった。嫌なことでも思い出したようだ。

「……腹立つくらいお人好しな奴だ」







「家に帰ろう」


「……うん」





おわり









おまけ