Eno.159 セト=ロベリア

■ 手紙の宛先、神の羊の歌

 

「……と、いうことでね」


ところは『輪廻の庭』。
かつて青き神と戦い、最高神の座を継いだ若い女神……『群青星』の本拠地であり、彼女に与する者たちが住まう空間。


「彼から手紙を預かってきた」


こともなげに話すは、『混色の魔王』カルツァ。
現在のセトを作り上げ、ジーランティスに送り込んだ張本人である。


「お前……やってくれやがったな……!」


批判的な視線を送るは黄銅。青き神に酷く苦しめられたうちのひとりだ。
同じくその父の赤銅、さらに……姉の白金もいる。
彼らは皆一様に、青との戦いで負った傷がまだ癒えずにいる。


黄銅「なんで伝達役の俺に話さなかった!?」

混色「言えば殺しに行くだろう、君。
   彼はホムンクルス製作の貴重なサンプルでもある」

白金「……いくら魔王とはいえ、この行動は目に余るぞ」

混色「そうだった?でも、悪性には堕ちていないよ。
   これは、揃った感情を与えられなかった彼に与える
   慈悲であり、贖罪のチャンス──
   それに、モンド英雄の器の少年に対する救済でもあるんだ。」

赤銅「 ………… 、 …… 

混色「……ああ、わかったわかった。赤銅、君の弟の姿と記憶を穢すような真似をしたことについては謝ろう。
   しかしね、君、自分で死ぬように仕向けておいてそれかい?」

白金「カルツァ!!」

混色「……すまないね。剣を下ろしてくれ、
   君も知っての通り殺したって死なないんだから。」


「君たちが彼……いや、青を殺したいほど憎んでいるのは知っている。けれどね」

「彼セトは今や、元のあれではない」

「この手紙が証明してくれるさ」




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── 緞帳を開き、照明をつけて
── この実験を、一瞬たりとも見逃さないように
── 本は時計じかけのオレンジのように奇妙なもの
── 終幕の時まで、瞳にバターを絶やさないで



思えば、短くも、永劫より濃密な7日間だった。


── これからどんな人になりたい?
── 鏡に映る身体の中、他に誰か居るのだろうか?



目覚めた時は不安に満ちていた。
好き放題に身体を、存在を弄られ、尊厳を汚されてここに落とされたから。


── 僕のために踊れ、ワン、ツー、スリー、回って
── 本を読み終わるまで、犬みたいに行儀よく座っていろ



それも、今は感謝に近い感情を抱いている。


── 損を切って、詰めて、
── 都合のいい理論だけで作り上げたこの世界じゃ
── 君のその頑固な忠誠が君を殺すだろう



人の心を与えられた今ならば、わかる。
かつてあの世界で至高の神であった青が、どんなに邪智暴虐に塗れていたか。


── 画面の向こうの駒共は、時に糸から慰めを得る
── 僕を操るのならば、演劇的に面白くしてみせてくれ!



たとえ眷属でも、いまなら悪くないと思える。


── 「自由になるってどんな気分?」
── 「自分でやってみたら?」
── 僕の為の扉が開く



あの魔王も、青に、僕によって苦しめられた一人だ。
これは復讐なのだと言っていた。


── 僕は飛び降りた 奥まで、ずっと奥まで落ちていく
── 自分はタフな子だから大丈夫、そう言い聞かせて
── 落ちて、落ちて、それでも、どうしても、地に足はつけられなかった



不安だった。自分が何なのか分からなくなった。


── 情動は右、理性は左、
── そうして気づいたらお前が用意したベッドの上。



それを全部、奴のせいにして、なんとかしていたんだ。


── 操り人形になってやったって構わないさ
── さあほら、糸を引くがいい
── 広げた愛らしい人形のピンクに、人工美の白雪色



でも、そうじゃない。罪悪に気づいた。
奴の望み通りに、僕は苦しむことになった。


── 僕らは皆、冷たい機械なのかもしれない
── 人の皮を被り、人の罪を犯し、
── 街の神様に縫い合わせられたお人形



この苦痛は、受け入れなければならない。
到底償いようのない罪。世界を滅ぼそうとしたほどの邪悪だ。


── もうやめろ、お前は負けたんだ!
── 少数派を消費し食い潰す世界じゃ
── その素晴らしい勇気もお前を酷く傷つけるだけだろう!



彼らが僕を、青を殺してくれたことに、深く感謝している。
加えて、やり直すチャンスをくれたことも。


── そんなエゴイズムが君たちを安らげるならいいな
── 僕を交換するならば、
── 一片も残さず消し潰す気で振る舞うがいい!



けれど、どうすればいいかわからなくなって


── 僕の緞帳はいつ降りる?
── 何もかも飽いてしまったから、立ち去る準備を済ませたんだ



罪悪で動けなくなってしまった。


── 線を引いて、ワン、ツー、スリー
── 手を繋ぐ
── 全知全能だけで生きていられなくなった時



そんな時、皆が、手を貸してくれたんだ


── 君たちは僕に強さを分けてくれた
── 希望に満ちた好奇心を与えてくれた!

── 幸せの答えはまだ、僕に発見されることを期待して、
── この世に残っているかもしれない。



いくら時間がかかるとしても、僕は償いの旅に出よう。
冒険者になって、僕が苦しめたよりもずっと多くの人を救えるように。


── 君の見る電気羊は何色をしている?
── それから、もし僕のことを愛してくれるのなら
── 僕の代わりに、君のすべても愛してくれないだろうか?



ありがとう、遭難者クラブ。
ありがとう、皆。
僕はこの島を絶対に忘れない。


── Mili - String Theocracy