Eno.304 トランクと旅行者

■ 『旅行者』の手記

荷物とともに船に乗って、一週間を過ごした島を離れた次の日。
大きな船に、同じくらい大きな声をかけられて驚いていると、
船に乗っていた海賊さんから、この海のことを色々と教えて貰いました。

この海はどうやら、流れ着く前の私がいた海ではなくて……
ええと、私も完全に理解できているわけではないのですが……
ともかく、不思議なことが起こる、違う世界の海らしいです。

考えてみれば、私たちはどこに進めば陸があるのかも知りませんでしたが、
どうやら強く願うことで、元の世界に戻れるらしいです。
無事に陸に戻れそうだとわかって、安心するような……
元の世界には、一緒に船に乗っている彼女たちはいないのかもしれない、と思うと、寂しいような。

いえ。悲観するのは良くありませんね。
まずは、命を拾ったことを感謝しましょう。


……そう言えば……

朝食をいただいて一息ついた後、何かを忘れているような、変な居心地の悪さを感じました。

思い出したようにトランクを開けて中身を整理してみると、
塩水に浸かっていたためか、傷んだ人形の服がいくつも出てきました。
けれど肝心の人形は、トランクに中に入っていません。
もしかして、漂流中に無くなってしまったのでしょうか。

それにしても、私、今までどうして、このトランクを自分の荷物と思っていたんでしょう。
入っているのは人形遊びのための小物や服ばかりで、私が使えそうな物は何もありません。
でも不思議と、見ていると懐かしいような……
もしかしたら私、子供の頃に、同じような着せ替え人形を持っていたのかもしれませんね。

折角ですし、人の住んでいる陸に着いたら、修繕してくれるお店を探しましょう。
きっとこれも、今回の船旅の思い出になる気がします。


結末:人間として生きていく。