Eno.139 薄井すもも

■ ぼうけんがおわったあとのこと

皆で作り上げた船『スーパーくじらごう』に乗ったり降りたり、冒険を振り返ったりする三人。
全員分の船旅の用意は間に合わなかったが、きっと大丈夫だと、助けが来てくれると、待っていた。

浜辺の方角から、汽笛の音。重なるように、人の声。
救助船だ。
島からの光と煙が届いたのだろう。
砂浜にそびえ立つ灯台も、どこか誇らしげだったかもしれない。

皆で無事に帰れることに安心して。
なにをお土産に持ち帰ろうか、あやしいきのこを思いきって食べてしまおう、クラッカーを鳴らそう。
はしゃいで、笑って。冒険の時間は、幕を閉じていく。

子供は最後に島をひとまわり。
壊れてしまった罠を見ては、それで捕まえた獲物を思い出し。
役目を果たした灯台にも別れを告げて、皆と救助船に乗り込んだ。

しかしふと忘れ物に気付いて、一度船を降り、ひみつきちへ戻る。
そして木の枝と破いた衣服の袖で旗を作り、地面へ突き立てて、再び船へ。
『わたしたちのむじんとう』と書かれた旗を冒険の場所へ残し、皆のもとへ。

スーパーくじらごうは救助船の人たちに委ねた。
プロの方々がきっといい感じに活用してくれることだろう。
島で生まれた、木材ボディのスーパーくじらごう。
世界に泳ぎだせ、みんなのスーパーくじらごう。
いつかハイパーになる日も来るかもしれない。

皆で作り上げた船を救助船に牽引してもらいながら、それぞれの帰り道へ。
いつか、瓶に入れた手紙を出そうと、そんな約束をしながら。



漂流して、冒険して、救出船に送り届けてもらう期間を経て。
子供は、自分の家へと帰って行った。

母に抱きしめられ、父に抱きしめられ、その後ろで兄が膝から崩れ落ちている。なんだか水滴が落ちる音まで聞こえる。
買ってもらったばかりの衣服が薄汚れてびりびりに破れているが、それに何を言われることもなく。
よく分からないけど怒られなくてラッキーな気分の子供は、家族の心配も安堵もどこ吹く風で、抱擁を受けていた。

あたたかい風呂。さっぱりした着替え。慣れ親しんだ家のご飯。
親分の時間は終わり、あっという間に元の生活へ戻っていく。

けれど確かに存在した、その時間の事を。
火を熾したこと、釣りをしたこと、海に落ちたこと、嵐に遭ったこと。
泡を吹きそうになる両親を気にとめることも無く、得意気に語っていく。
二人の冒険の仲間、作った物、皆で紡いだ物語。話すことはいっぱいだ。

なお、船から海に落ちた経緯(自ら飛び込んだ)を話すとこれはめちゃくちゃ怒られた。
島の経験を経て、危ない目に遭うのはよくないと学んだ子供。
素直にごめんなさいし、船や旅行の関係者にも家族で謝りに行った。

ちょっぴり成長した子供は、島で皆と過ごした時間を宝物に。
これからも、どこまでも、どこまででも。
健やかに、腕白に、未来へ進んでいく。