■ No Title. ■■■
ぬいぐるみのまこちゃんのおくの方に、ゆりのケータイがありました。
おばさんたちのところに行く前に買ってもらった、あたらしくてかわいいやつです。
でも、でんちが切れているみたいで、ボタンをおしてもまっくろのままです。
…………
ここに来る前のこと、ゆりはよくおぼえていません。
おばさんとおじさんと、ひこうきに乗ったことはおぼえています。
そのあと、まこちゃんにおでんわした気もします。
…………
ゆりは、でんわでまこちゃんになんて言ったんだっけ。
もしかしたら、すごくしんぱいをかけてるかも。
まこちゃん、すっごくしんぱいしょうってやつだから。
心配しなくてだいじょうぶだよってお手紙、とどくといいなぁ。
何枚も書いていた手紙も、いくつも浮かべる言葉も、ささやかな願いも、
叶わない事を知っている。
……だからなんだというのだろう。
知っていたからといって、僕にできる事はない。
知るべき時が来れば知るだろう。
知らずに終わるならば、それが最善なのだろう。
ただ、ただ。
健やかに生きてくれる事を祈っている。
それが彼女に向けられていた愛情だという事を、知っている。