Eno.255 トワル

■ *『モノローグ』

 
 
横糸はキミで、縦糸はキミ。
織手は偶然で、断ち切るのは宿命。
僕はそれを、ただ眺めて、そっとしまっておくだけ。




『トワル』って名前には、いくつか意味がある。
亜麻の布、蜘蛛の巣、横糸と縦糸が作り上げるもの。
この名前が、僕は結構気に入っている。

表に出ないわけだから、大層な肩書きなんて、当然無いけれど。
それでも僕は、これさえあればいいと思ってる。
自分で言うのも何だけど、結局のところ、僕は籠城戦にかけては誰にも負けやしない。
だから自分で作り上げた居場所の中で、自分の好きなものを眺めて、守っていく。
そんな僕の生き方を、この上なく端的に表していると思うから。



蜘蛛の巣に子守唄を口遊む者。
やがて生れ出づる子蜘蛛に腹を食い破られる母蜘蛛のようなもの。
ララヴァル・トワルという魔女は、そういうものだった。

それが大きく変わった、というわけではないけれど。
ただ、そのいとまの中に ほんの、けれど確かな変化はあって。

気が付いた時に、少し、或いは随分遅れてクリスマスを祝うようになって。
気が向いた時に、自分で、飾り気のないパンケーキを焼く事があって。
届くかもわからない届け物を、ほんの少しだけ待つようになって。
いつか、誰かの話の続きを聞ける事を、ほんの少しだけ期待して。
いつかの夜に、誰かと見上げた篝火を思い出して。
時々、もう見る事の無い夕焼けの海を思い出して。
『おとぎばなし』に触れた時、ふと思い出すことがあって。
誰かが手ずから作ったクッションとぬいぐるみは、いつでもソファの片隅にあって。
無い光景を描いた絵を見る度に、なんとも言えない気持ちで苦笑して。
冷たい薬莢のストラップを眺めて、いつかの祈りと小さな奇跡を想うのだ。



横糸はキミで、縦糸はキミ。
織手は偶然で、断ち切るのは宿命。
僕はそれを、ただ眺めて、そっとしまっておくだけ。


それはやっぱり、変わらないけれど。
自分の思い出は、自分のものとして。
そうやって傍に置いておいても、いいんじゃないかって。
今更になってそんなことを思っただけの、本当にたったそれだけのこと。



ああ、でも、本当によかった。
何かの間違いで、誰かが僕を頼るなんて事にならなくて。

一度でも手に入れてしまったら、きっと。
手放そうにも、手放せなくなっていただろうから。