Eno.534 久木沢 杏子

■ おわりの船出

また日を開けてペンを持つ。

今日は数えて八日目の終わりも見えてきた頃、私は船の上にいる。
『前』の時は救助船に救出され、色々経たのち気付けば見慣れた国の見たことあるような港の入国管理局事務所まで届けられていた。
行方不明ではあったけど発端でもあったお出掛けイベントは
同僚達にも会社にも「最初から来ていなかった」扱いとなっていて
そんな彼らの顔はサメよりも青くなっていたっけ。

……話題が逸れてた。
今私が乗っているのは無人島の遭難者達とで作り上げた自前の船。
作り上げたとか自前とか言っても私は必要な備品や食事をちまちまとしていただけなんだけど。
……大人らしいこと、出来てた自信がないね??


そしてこの船の行き先は、実は誰もよくわかっていない。
帰る目的のある人もいるし、ふわふわの人もいる。
だから何とかそれっぽくなるだろう、という感じなのかな……私も変に悩むのをやめた。


思い返せば、『前』の遭難は慌ただしくも楽しくて、私の中では大きな出来事だった。
もう記憶のモヤの向こう側に行ってしまっているけどそれだけははっきりとわかる位の。





「………ああ……」



なんだ。
私は、楽しくて、愉しくて、たのしくて――――
つらさも、苦しみも、抱えたままの人たちがいたのに――――

「……また、と 思ってしまっていたのね」




これは、浅はかで欲深い、誤った私の罪滅ぼしの道。
揺蕩いながら、この海を共にゆきましょう。

いつか寄港する、その時まで。