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ライブは一人部屋で聞いていた。
本当に才能ある人ばっかりだなと思った。
心が揺さぶられる演奏。感情の乗った歌声。
いつも何気なく歌ってる校歌の歌詞さえ
船の上で聞けば胸に響くものがある。
頑張ったんだな。七海達。本当に。
終わってから、七海が、音楽やろうって、部屋に来てくれた時も嬉しかった。
私もやっていいんだって思えた。
でもこれから居なくなろうとしてる私とより
もっと楽しい音楽があると思うよ。
……なんて、私が怖いだけだ。
これ以上誰かの記憶に残って、誰かを傷付けるのが、怖いだけだ。
扉を叩いたあいつは何も言わない。
私も追いかけるの疲れちゃった。
船の個室は揺り籠に似てる。
安心するし、穏やかで、ついでにどこにも行けない感じ。
ただいま、という短い言葉に、父が返したのは「おかえり。楽しかった?」
なんていう何気のない、平和ボケした二言だった。
娘が7日間、行方不明になってたんだけどな。
調子の良い言葉なのに、ほっと息を吐いてしまう。昔から父はこういう人だ。
私が高校入学前に、自分の鋏で髪を切った時も
「似合うね。」とだけ言って、何も聞くことはなかった。
ありがたいんだか、寂しいんだか、良く分からない。
それに比べて離れて暮らしている母親は、随分心配していた様子で
私の無事を知って、家に来るなり、「怪我は?」「何もなかった?」「怖い目に逢ったよね。」
なんて、大袈裟に言って、私の顔をべたべた触って心配してくる。
そうして、私よりもいくらも小さな母親は、私を見上げてお決まりの言葉を言う。
”新夜は女の子なんだから。”
いつもうんざりするのに、その日だけはちょっと、嬉しかった。
あぁ、これが私の日常だったな。
父さん、母さん、私帰ってきたよね。
帰ってきて良かったんだよね?
肩の傷が酷く痛む。
「何があったの?」なんて聞かれて、答えられるわけがない。
私、”皆”が楽しそうにしているの、見てなきゃいけないんだよね。これから。
船の上の喧騒は既に、何事も無かったみたいに楽しげで
私はもう、このクラスの何処にもいられないんだなと思った。
多分帰ってからも一緒だ。
友達になりたいって言ってもらえても
それが前の”次”になるのが怖かった。
”次”になんてしたくなかった。
“次”になる相手にも申し訳ないじゃん。
人が嫌いになったわけじゃない。ただ私が許せなかった。
もう誰かを傷付けるのにも、傷付けられるのにも疲れてしまったし。
だってあと1年もあるんだよ?耐えられるわけないよ。
選べる奴は、次でも何でも選べばいいよ。
普通に戻ろうって言われても、船に乗るだけで精一杯だったの。
それ以上どうしたらいいかなんて自分では分からなかった。
時間と一緒に、普通に近付く度に、普通じゃなくなっていくだけ。
一人でいる程、それが明確になっていくだけ。
だから、さよなら、って言ったまま。
私は多分、果ての島高校に居続けることは出来ないし
もう誰かにおはようも、おやすみも、
またねも、言うことはない。
”皆”で一回帰って来れたなら、後はもう関係ないでしょ。
一人なら、どの果てまでも流されることが出来る。
行き先は、