■ リザベラ・レイモンドの冒険
その島に足を踏み入れたのは、去年の秋、落ち葉が舞い散る季節であった。
私の名前はヤックリー・ナレッジ。
民族研究を主題とする雑誌、『ストレンジャー・アイランド』の編集者兼、ルポライターだ。
南海に浮かぶ諸島群、長耳の一族が治める島国地域にこうして足を運んだのは、
本国への属国化後も独自の風習を貫いているこの島々の一つに、他と一風変わった部族がいると聞いてのことだった。
……そして確かに、その噂は誠であった。
島の者達が話している言語、それが我々と似通っているのはまだ良い。
おそらく、植民地化の際に、血が混じったのであろうから。
だがこの、七色の岩で作られた巨大なバスタブは何であろうか。
東方地域でよく聞く温泉、という文化に似ているようであるが……。
他の島国では見かけることはなかったのに。
あったとしても、このようにきちんと整備がなされていない自然のかけ湯くらいだ。
彼らは室内で風呂に入るのではなく、こうして野外で風呂に入るのを好むようである。
そして不思議なことに湯舟には、この島の聖獣だという黄色い鳥の飾りが何匹も浮かんでいた。
これに浸かると旅の疲れも一気に取れるよ、と笑う集落の若者に、私は話を聞いてみた。
これらの物をもたらしたのは、この島の伝説的な女性であるという事だ。
その女性は、この島に起きた大飢饉・大災害の際に神々への交渉者として立ち上がり、
見事、神から与えられた難題をこなして、褒美としてこの島を救って貰ったというのだ。
試練の度に色々な世界に赴き、そしてこの島にはない様々な物や文化、知識を持ち帰って来たとか。
おとぎ話の類ではあるのだろうが、その内容は具体的で、目の前に光景が広がるような冒険譚に、私はどんどん心惹かれていった。
カレーと呼ばれる香辛料入りのスープに穀物を浸したもの(これも彼女がもたらしたらしい)をご馳走になりながら、
彼女が書いたと言われている手記を見せて貰った。
そこに最初に書かれていたのは、全ての世界が繋がる不思議な島へ漂流したという内容だった。
ナガサレた島で出会った5人との生活。嵐の恐怖、僅かな人数で作り上げた船、そして知らず手助けをしてくれた影の存在について……。
……その話を区切りの良いところまで読んで、私の心は決まった。
これを世界に広めよう、と。
物語を読み、同じような体験を、多くの人に味わってほしくなったのだ。
───そしてこの冬、彼女の冒険譚の第一話が刊行される。
児童書仕立てだが、子どもから大人まで読めるよう、心血を注いだつもりだ。
裏表紙には、彼女の守護獣だと言われる猪をトレードマークに描かせて貰った。
きっと、この物語は世界中の人々を魅了するであろう。
そして彼女と同じような冒険を夢見るはずだ。
───こんな不思議な島にナガサレる体験を、一度で良いからしてみたい───
と。
―――『リザベラ・レイモンドの冒険』
第7巻までシリーズ化が予定されているこの本は、私の生涯をかけた事業になるだろう。
世代を超えて末永く語り継がれるような、そんな作品にしよう。
物語の中では、彼女たちの刻んだ日々が、褪せることなく輝き続けるのだから───。