■ 荷物袋とヒヨス草の搾り汁
目覚めてみればざっと数えて10人以上の遭難者が、
この島に固まって流されていた。
おかしいだろう、と今考えても仕方がないことが頭をよぎる。
どんな海流に乗れば、1つの島にここまでの数が集まるのか。俺が乗っていた船は、確実にツルボの街から南洋諸島までの、船乗りによく知られたルートだったはずだ。
冒険者に観光者(思ったよりは頼もしそうだが)、軍人…?に猫、挙げ句の果てに子供から病人まで。
俺含め全員をこの島で無事に生かせたら、
報酬上乗せされないかな。ダメか。
本筋の依頼じゃ俺は今頃行方不明者にされてる。
そしてこの島はやっぱりおかしい。
まず、『死霊の気配がしない』。
こんなに生命の繁茂した島、そしてこの安否不明者の便箋。
生あるところに死はあって然るべきもの。
俺はそれを、人以上に魔術を介して知っている。
それが全く、ほんの微かにも『ない』というのなら、
たぶん俺自身がおかしくなってしまっている。
水滴ひとつ動かす魔法すら、ここでは使えやしないと結論付けた。つまり身ひとつでなんとかしろってことだ。
次に荷物。冒険者に支給される荷物袋は、なんだかよくわからんが(本当に分からないんだ)無尽蔵の収容量を誇っていた……はずなんだが、ここでは底に手が届く。普通の袋だ。
……そもそも底に手の届かない荷物袋がおかしい。
それを島に指摘されたかのようだ。ごもっともで。
そんな荷物袋の中身だが、いつもの冒険にはもっといろいろ、簡易的なスクロールとか食糧とかあとまあどうでもいいものとか色々入れてたのに、
出てきたのは傷薬1本だけ。
ヒヨス草の絞り汁を原料にした傷薬。
ああ、普段なら魔法や精霊の力があるから、こんな傷薬はそうそう使わないのに。
これをホイホイ使うようなことにならないといいんだけど。