Eno.311 防寒着

ナガサレて、夏

「あつい……あついが……?
 あついぉ……おぅいぇ……」



 きゅ〜……ぱすり。軽い音を立てて砂浜に倒れ伏す少女は、全くこの季節に不釣り合いな完全防寒仕様でした。
 肌の一片も露出しないようなコート、マフラー、それと丸いゴーグル。顔の隙間は不自然なほどの闇に覆われ、中を窺い知ることはできないでしょう。

「何様ですかこの炎天下さんはぁ……
 こっちの格好のことも考えてよぉ……」



 まったく自業自得に思えるような恨み言をぼそぼそ呟き、このまま砂浜に漂着した布の塊として一生を終えるのか、なんて暗い気持ちが少女の心を満たしておりました。

 まだ何もかもが始まる前。物語ならきっと序文として飾られるような、そんな一幕でした。