天国か地獄かは偶像が決めるらしい
「これからしばらく鶴ちゃんに会えなくなるのかー、寂しくなるなぁ」
「ふふ、わたしも寂しい。でも安心して?ただの臨海学校よ?いきなりサメに襲われるとかないんだから」
作り物の笑顔で、ファンに向けてそう言い放つ。ファンに会えなくて寂しいなんていうのも嘘っぱち。他の子達は分からないけど、わたしはファンのことを集合体の一つとしてとしか捉えていないふしがあるんだと思う。
わたし達のような地下アイドルは、良くも悪くもファンとの距離感が近い。この活動を始めてかれこれ6年くらいは経っている。メンバーの地道な努力とファンの応援のお陰で、少しずつではあるが軌道に乗り始めてきている。ファンとの距離感の近さに助けられたことも少なくない。
わたし達のグループ、『うずめLily』に、テレビのオファーが来たのはつい最近の話だ。これもまた、ファンの中にテレビの関係者がいたところから、話を通してくれたらしい。地方局の、それも早朝の番組ではあるが、わたし達にとって大きな一歩となるだろう。
「みんなお疲れ。着実に歌もダンスも上手くなってるから、このままテレビに向けて仕上げていこう!
これからはレッスンもライブも大事、ファンも大事だけど、体調管理が重要になってくるから、絶対無理だけはしないように」
ライブ後のミーティングで、プロデューサーが早口で畳み掛ける。テレビと聞いて不安に感じている者、浮かれている者などメンバーによって様々だが、Pの言葉を聞けば気が引き締まるという子は少なくない。
「それと、明日からせららちゃんは高校の臨海学校に入って2日間レッスンに来られなくなるけど、その間もきっちりやること。」
「まったく。大袈裟ですよ。たかが臨海学校ですよ?その期間練習できないのはまぁ……ネックですけど、わたしならそれくらいのブランクよゆーで取り戻せますんで?」
「でもさ、たしかせららちゃん、ハテコーだよね?」
「うん、そうだけど……」
仲のいいメンバーの一人が、そんなことを尋ねてくる。たしかにわたしはハテコーの生徒だけど、それと何か関係あるのだろうか。
「ハテコーの校外学習ってさ、奇妙な噂話があるんだよねー」
「え?なにそれ?」
帰宅部で先輩達との繋がりもない、放課後は即レッスンに向かうわたしは、学校の噂話にはあまり詳しくない。校外学習にまつわる噂話なんて、何かあっただろうか。
「友達から聞いた話なんだけどね、『集団神隠し』。聞いたことない?去年、ハテコーの生徒が修学旅行で揃って行方不明になったって話。結局全員生還したらしいけど、マジでビビったわ〜」
「あっはははははははははは!何を言い出すかと思えば……ぷくく……冗談ならもうちょっとマシなのを言ってよー。
言うて修学旅行だよ?そんな集団神隠しとかあるワケないじゃない。
もしかして、そんなしょーもない噂話信じてるの?」
「冗談じゃないってば!ま、信じるかどうかはせららちゃん次第、ってね」
このときはまさか、こんなことになろうとは思っていなかった――
*
――わたしは今、海の上を漂っている。
足の感覚はすっかり無くなりつつある。海水の冷たさか、それとも有毒な生物に刺されたのかはもう分からない。しかし、だんだん身体が重くなっていくのは感じていた。
それでも必死に腕を動かして、沈まないようにもがいて足掻いている。
身体を水に浮かせながら、海水が染みて美味しくなくなったお菓子で腹ごしらえをする。
こんなところで終わってたまるものか。
こんなところでくたばってたまるものか。
6年間必死にアイドルやってきて、歌もダンスもめちゃくちゃ練習して、芸能事務所に単身乗り込んだってのに。
ようやくファンがついて、センターを掴み取って、テレビだってもうすぐそこにあるってのに。
そういえば、高校の制服を身に纏っている。制服がかわいいという理由だけで入学したハテコーのセーラー服を。
ああ、そっか……今日臨海学校だったんだ。臨海学校で突然津波が来て、呑まれて……
あ、きっとこれダメなやつだ。
アイドルへの未練はクソほどあります。
歌い足りないし踊り足りないし、ファンも知名度ももっと欲しかった。
メンバーとももっともっと仲良くなりたかった。
でもごめん、私はたぶん先に逝きます。
願わくば、『うずめLily』がもっと人気になって、残ったメンバーが笑顔でいられますように――
*
気がついたら、見知らぬ『シマ』に漂着していた。

「ふふ、わたしも寂しい。でも安心して?ただの臨海学校よ?いきなりサメに襲われるとかないんだから」
作り物の笑顔で、ファンに向けてそう言い放つ。ファンに会えなくて寂しいなんていうのも嘘っぱち。他の子達は分からないけど、わたしはファンのことを集合体の一つとしてとしか捉えていないふしがあるんだと思う。
わたし達のような地下アイドルは、良くも悪くもファンとの距離感が近い。この活動を始めてかれこれ6年くらいは経っている。メンバーの地道な努力とファンの応援のお陰で、少しずつではあるが軌道に乗り始めてきている。ファンとの距離感の近さに助けられたことも少なくない。
わたし達のグループ、『うずめLily』に、テレビのオファーが来たのはつい最近の話だ。これもまた、ファンの中にテレビの関係者がいたところから、話を通してくれたらしい。地方局の、それも早朝の番組ではあるが、わたし達にとって大きな一歩となるだろう。
「みんなお疲れ。着実に歌もダンスも上手くなってるから、このままテレビに向けて仕上げていこう!
これからはレッスンもライブも大事、ファンも大事だけど、体調管理が重要になってくるから、絶対無理だけはしないように」
ライブ後のミーティングで、プロデューサーが早口で畳み掛ける。テレビと聞いて不安に感じている者、浮かれている者などメンバーによって様々だが、Pの言葉を聞けば気が引き締まるという子は少なくない。
「それと、明日からせららちゃんは高校の臨海学校に入って2日間レッスンに来られなくなるけど、その間もきっちりやること。」
「まったく。大袈裟ですよ。たかが臨海学校ですよ?その期間練習できないのはまぁ……ネックですけど、わたしならそれくらいのブランクよゆーで取り戻せますんで?」
「でもさ、たしかせららちゃん、ハテコーだよね?」
「うん、そうだけど……」
仲のいいメンバーの一人が、そんなことを尋ねてくる。たしかにわたしはハテコーの生徒だけど、それと何か関係あるのだろうか。
「ハテコーの校外学習ってさ、奇妙な噂話があるんだよねー」
「え?なにそれ?」
帰宅部で先輩達との繋がりもない、放課後は即レッスンに向かうわたしは、学校の噂話にはあまり詳しくない。校外学習にまつわる噂話なんて、何かあっただろうか。
「友達から聞いた話なんだけどね、『集団神隠し』。聞いたことない?去年、ハテコーの生徒が修学旅行で揃って行方不明になったって話。結局全員生還したらしいけど、マジでビビったわ〜」
「あっはははははははははは!何を言い出すかと思えば……ぷくく……冗談ならもうちょっとマシなのを言ってよー。
言うて修学旅行だよ?そんな集団神隠しとかあるワケないじゃない。
もしかして、そんなしょーもない噂話信じてるの?」
「冗談じゃないってば!ま、信じるかどうかはせららちゃん次第、ってね」
このときはまさか、こんなことになろうとは思っていなかった――
*
――わたしは今、海の上を漂っている。
足の感覚はすっかり無くなりつつある。海水の冷たさか、それとも有毒な生物に刺されたのかはもう分からない。しかし、だんだん身体が重くなっていくのは感じていた。
それでも必死に腕を動かして、沈まないようにもがいて足掻いている。
身体を水に浮かせながら、海水が染みて美味しくなくなったお菓子で腹ごしらえをする。
こんなところで終わってたまるものか。
こんなところでくたばってたまるものか。
6年間必死にアイドルやってきて、歌もダンスもめちゃくちゃ練習して、芸能事務所に単身乗り込んだってのに。
ようやくファンがついて、センターを掴み取って、テレビだってもうすぐそこにあるってのに。
そういえば、高校の制服を身に纏っている。制服がかわいいという理由だけで入学したハテコーのセーラー服を。
ああ、そっか……今日臨海学校だったんだ。臨海学校で突然津波が来て、呑まれて……
あ、きっとこれダメなやつだ。
アイドルへの未練はクソほどあります。
歌い足りないし踊り足りないし、ファンも知名度ももっと欲しかった。
メンバーとももっともっと仲良くなりたかった。
でもごめん、私はたぶん先に逝きます。
願わくば、『うずめLily』がもっと人気になって、残ったメンバーが笑顔でいられますように――
*
気がついたら、見知らぬ『シマ』に漂着していた。
