Eno.473 真白野 陽子

いち

 目を覚ました時、最初に感じたのは”懐かしさ”だった。
嗅ぎなれた森の匂いと、嗅ぎなれない潮の匂い――どちらも、懐かしい自然の気配だ。


――”じじい”が死んでから、知らないやつらが片っ端から自分から自然を引きはがしていった。

 今では住まいも遊び場も、狭苦しい箱だ。
箱の大小と生息者に違いはあれど、自然の気配はない――どこにも自分のナワバリ居場所がない。

 当然、嫌で嫌でたまらなかったが、それこそ”じじい”最後の願いだった。
”じじい”はいつも正しかったし、そんな”じじい”が好きだった。
だから嫌でも新しい生を受け入れなければと頑張っていたが――


 素早く身を起こす。状況は分からない。
もしかしたら癇癪を起して”じじい”との約束を破ってしまったのかもしれない。
――だが、ここは”自然”だ。生きるために全力を尽くす場所だ。

 周囲に人の気配。知った気配。ならば構う暇はないと森の方へ駆け出した。