Eno.275 君影 早霧

1日目 拠点


隅の方で横になる。
黒い狼のぬいぐるみに頭を乗せ、辺りを眺めて。


──気づけば、暗く濁った泥水の中を揺蕩っていた。

不思議と温度は感じない。
ただ、やけに心臓を騒がせ背筋を冷やす巨大な気配が其処に在るだけ。

背後の其れがいつ動くか、いつ食われてしまうかと
身動ぎひとつ出来ないまま神経を擦り減らす時間だけが過ぎていき、



ばち、と意識が覚醒した。
細く息を吸い、ぬいぐるみを強く握っていた指を緩慢にほどく。

いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。
最近はあまり見ることもなくなっていたが、この悪夢にも慣れたものだ。

だから大丈夫。こんなことは何でもない。
いつ沈むともわからない環境で少し疲れているだけ。

何度も繰り返し繰り返し見てきた夢だ。
慣れているから、大丈夫こんなところでも付き纏うのか

……ああ、でも。
大丈夫って、言わない方がいいんだっけ。