Eno.325 鮫島飛鳥

何も無い

芸能界ではよく、あれは本物だ、とかそういう言い方をする。
楽屋ではその序列で挨拶をする。
凄い人はやっぱ凄いって思うし、本物だと思う。

それが自分にあるのか?っていうと、無いわけで。
アタシのは、何もかもが薄味だ。


マナぴのじめじめは、「本物」だ。
嘘とか演技であんなにじめじめはしないし、あんなに背筋が凍るような目をしない。

……キャンプとかサバイバルが好きだった幼馴染が死んだらしい。
多分さ、それはマナぴの大事な人だったんだよ。
マナぴは大事だとか好きだとか、そういう感情を知ってて
それで、そういう人を亡くす悲しみも知ってるんだ。

きっとさ、それに共感したり一緒に泣いたりするのが普通なんだと思う。
マナぴの気持ちがちょっとでも落ち着いたり、良くなればいいって思うのが「普通」だよって、みんな言う。

アタシは、マナぴの第一印象は「羨ましい」だった。
キャラが立ってて羨ましい。
あのゾクッとする寒気。
見る人に強い印象を残す、じめじめした病んでる雰囲気。
もしあれがさ、ずっと出せたら

……売れそうじゃん。


そんなことばっか考えるの、やっぱおかしいよな。
アタシは、空っぽだ。




……雨の音がする。
家で聞くような文明的な音じゃなくって、木とか葉っぱに跳ね返る原始的な音。
なんもない、アタシみたいな音だ。