はながさき、
私は元々【**】という姓であったらしいが、物心ついた頃には既に母の姓になっていた。
所謂母子家庭の一人っ子で、養育費に関しては【**】の方から多額に貰っているからと、普通の子供と同じように学校に通っていた。
父のいない私という存在は、他の子から見れば珍しく見えたようで、ちょくちょく馬鹿にされたりもした。私は、それに対して怒りも悲しみも抱かなかった。だって、いないことが当たり前だもの。
けれど、何度もネタにされれば流石に気になってしまうもので、ある日、母にそのことについて尋ねた。
『どうして**さんと、"リコン"したの?』
母は、少しだけ驚いた後、悲しそうな表情を浮かべながらも、嘘偽りなく話してくれた。
【**】さんは、反社会の人間だった。暴力を振るわれたり、心が傷付くようなことをされたりしなかったが、私を孕んだ時にこの関係のままでいれば、きっと私に迷惑が降り掛かってしまう、と母は考えた。ゆっくり、ゆっくり、と。私が生まれるまでの間、長く話し合いを重ねて、そうして、『私が1人立ちするまでは**の人間だから世話をする』と約束を結び、離婚したらしい。
『お父さんに、会いたい?』
そう尋ねられた時、私は首を横に振った。私自身がその事情をよく理解していないことも相まったのだろうが、私にとって父親がいないことは当たり前で、唯一の家族は母だけであったから、会いたいという気持ちは、湧かなかったのだ。
『…ごめんね、ごめんね…』
思ったままのことを口にすれば、今度は母が泣き出して、優しく抱き締めた。どうして謝るのだろう。母は、何か悪いことをしたわけではないのに。
私はただ、母と2人、静かにこのまま暮らせればいいと思った。**の人がいくら悪くても、優しくても、私にとってはどうとでもよかったから。
数年後、あの男がやってきた。