Eno.508 菊月澪

現視

12年くらいだったか。そのくらい使っていた眼鏡が壊れた。
こうなれば呪具としての力も発揮しない。西田のおっちゃんにはどう説明したものか。


現を視るための眼鏡。
影にも虚にも夢にも囚われないようにするためのレンズ。
フィルターを通せば、人と同じ世界が視える。
人がいない位相へと手招く扉に鍵ができる。

それが壊れた。
拠点に帰れば要らないものも見てしまうかもしれない。
あるいは、分からなくなった虚の境界に迷いこむかもしれない。

現への執着がなくなれば、それは容赦なく沼となり引きずり込む。



捨ててしまおうと思ったそれに、待ったをかけられたのは。
きっと、気にかけてくれる友人のおかげ。



果たして現を視ているつもりのそれは。
幻視か。はたまた、現視か。





朝が来れば。
相棒と、暫くのお別れ。

長い長い、朝が来る。