Eno.76 リアムとフィン

4. 癒しのお風呂と密かな幻想

無人島に流れ着いて、三日目の朝が来た。
朝一番に森林に風呂ができたと聞いて、喜ぶ面々を見ながら、リアムは内心首を傾げる。
主に、フィンも喜んでいる面子に入っていることについて。

リアム
(別に転んでもいねぇし、海にも落ちてねぇのに……
 まあ、元々風呂には毎日入ってる奴だったか)


森で泥だらけになったとか、岩場から海に落ちたとか、
そうした、わかりやすく「身体を洗わなくては」となるようなトラブルには、
幸いにして今まで鉢合わせたことはなかった。

何より昨日の夜も、ぬいぐるみと共に転がり込んで来たフィンを抱えて寝ていたリアムなので、
抱き心地も匂いも、いつも通りだったのは知っている。
単純に、いつもの習慣なので、みんな喜んでいるのだろう、とリアムは解釈した。

フィン
「リアムくん、リアムくん、
 あとでいっしょに、いこっ」

リアム
「へいへい、後でな。
 まだ夜が明けたばっかりで、薄暗いんだからよ。
 帰り道に転んだら、台無しだろ」

フィン
「わわ…きをつけるの…!」


実のところ、リアムは「女の子」という生き物に詳しくない。
陽桜市にいた頃、それより前の研究所にいた頃、あるいはもっと昔のスラムにいた頃から、
他人と一定の距離を置いていたリアムにとって、接触するほど寄って来る相手はフィンくらいだ。

そのフィンは、真っ当に、新陳代謝を行っている生き物ではない。
潮風に吹かれた後、お手入れを怠ったとしても、髪も肌もふわふわしている。
潮のにおいも残っていなければ、寝床に転がり込まれても、気にせず抱き枕にしていた。
そんな暮らしをしていたリアムは、「女ってのは、みんなそうなんだろう」と思っている。

つまるところ、「女の子」という生き物に幻想を抱いているのだが、
幸か不幸か、リアムは島でのキャンプ生活を終えた後も、
きっと女の子らしさが努力の上に成り立っていることを知らない──