Eno.311 防寒着

燃えよ防寒着

 食べ物も飲み物も無いようなころは、もうすっかり昔のことのように思えました。
 施設が揃っていくらかの娯楽らしきものもでき、これらがすべて人の……それも、ここに集まった二十余人程度の力でできたというのだから驚きです。

「かき氷 うま……」

 こんな暑苦しい服装をしているものですから、冷たいお菓子はいっそう冷たく、甘く感じられました。
 手製のスプーンを薄い氷に突き刺し、すくい上げた欠片を口へ……おおよそ口がありそうな位置の闇へと放り込みます。軽快にそれを繰り返して、

「……あ! きーんてした! 頭いたい……!」

 まったく予想ができたとおりに頭を痛めていました。





 そんな呑気な日常を送っていた折。ふと、防寒着は考えます。これでいいのかと。
 生きていくには、もう十分な量の蓄えができたでしょう。
 これからも魚を釣り、獣を罠に掛け、水を汲んで浄化し……それを続けていけば、きっといつか助けが来るときまでは生きながらえることくらいできましょう。

 ──生きながらえる、ただそれだけで、本当にいいのでしょうか。
 男として生まれたからには……防寒着はどちらかというと少女よりの自我を持っていましたが……それでも、どうせならこの生涯、大きな花を咲かせてみたい。そう思ったのです。
(ちなみに、島に人外があまりに多いため開示フェーズを省略しましたが、実は防寒着は人間ではなく防寒着だけで動いているリビングアーマーのようなものです。どうせみんな知っていたことと思います。)

「わたし……やってやるぞ!
 なんかでっかいことを!!」

 青年実業家のようなことを叫び、そうして防寒着は燃える決意とともに立ち上がりました。その瞳は、熱い決意にゆらゆらと揺れていました。

「まずはなにやるか考えるところからかな」

 その先行きは、ずいぶんと長そうでした。