Eno.76 リアムとフィン

1. 漂着した

よく晴れた夏空。塩気を孕んだ風。青く澄んだ海。
海水浴に来てこの光景に出迎えられたら、歓声の一つも上がるかもしれないが、
自分たちは船に乗っていたはずなので、口から出るのはため息くらい。

フィン
「わーい! うみー!」


前言撤回。歓声を上げて波打ち際で子犬のようにはしゃいでいるのが一人いた。

リアム
「元気そうだな。怪我はしてねぇな?」

フィン
「うん。リアムくんは? どこか、いたい?」

リアム
「オレも大丈夫だ。
 ……多少、違和感はあるが、不調ってほどでもねぇ」


正直なことを言えば。
この砂浜で気が付いてから、リアムは少しばかり身体が重い気がしていた。

風邪と言うほど明確な不調ではなく、怪我をしているわけでもないが、少しだけだるい。そのくらいの。
怪異であるリアムは、人間だった頃よりも、遥かに体力も回復力もあるはずなのだが、
どうにも、そうした異常性が、軒並みなりを潜めたような不自由さがある。

魔法頼りで生きているようなフィンを見ると、いつも通りに元気そうなので、
例えば異常性が綺麗さっぱり消える、というわけではないのだろう。
どう言った理屈で、自分だけ抑制を受けているのかはリアムにはわからないが、
いつかの怪異事件のように、再生力に物を言わせて動くのはやめるべきだろう。

リアム
「はあ……とりあえず、この辺り見て回るか。
 あんま離れんなよ、フィン」

フィン
「うん! リアムくん、まってー」