Eno.645 ヴィクトル・トート

刃物の話

「……ふむ。こんなもんかな」


完成したものを手に取り、安全を確認した上で何度か振ってみる。
手に馴染むことと、実用性とを加味した結果この形になったが、まあ悪くないんじゃないだろうか。
刃を薄くするのが難しかったので重さはあるものの、この程度なら許容範囲だ。
余裕で片手で扱える。
むしろ刃が厚いので、伐採や薪割りにもしっかり耐えるだろう。
有り合わせの材料で作った割には満足だ。

「意外といけるじゃん。帰ったら、開発棟に移籍するのもいいかもな」


もちろん無理な話だが、ものづくりの楽しさに目覚めつつあるのは本当だ。
更に何度か素振りをして、感触を手に馴染ませていく。

『おれというものがありながら!!!!!』


「うわ、うるさ。なんだよ。頭に響くだろ」


突然叫んだヨナを空いた片手でキュッと握る。
すぐに大人しくなったが、何か言いたいことがあるらしい。

『そのなまくらに一言物申させろ』


「人の作ったものに失礼な。なんだよ」


『おれの方が絶対によく斬れるからな!!!』


「だからうるさい。……それはそうだろ。
 僕だって知ってるけど、でも、お前使えないんだから仕方ないじゃん」


ヨナの切れ味が鋭いことはよく知っている。
だけど化けられないものは仕方がないことだ。
使えるものがないのなら、他のものでなんとかしなければならない。
贅沢を言ってる場合じゃないんだし。

『おれの方がつよい……』


「もうわかったっての。別に持って帰ってまで使う気はないよ」


とは言ったものの、せっかく上手く出来たので、もし可能ならお土産に持って帰りたいとはちょっと思う。
だってせっかく作ったんだから、もったいないし。
見せてやりたい奴もいるし。
だけどまた拗ねられると煩いから、これはヨナには黙っていることにしよう。
手の中でくるりと柄を回す。再び素振りをし、自作の刃を体に馴染ませていった。