Eno.77 影宮流壺

【零章 異変明けの青空を】

 大規模異界を巡る物語が幕を閉じ、おれは新しい日常の中へ飛び込んだ。ヤマトワの国から日本の国へ、まるで違う常識のあるところへ。

 元の世界には戻らないと決めている。この選択に後悔はない。あの世界にはもうおれの居場所なんてないのだから。

 ……華火の遺体も兄貴の遺体もあちらにあった。墓参りはこの世界では出来ない。運命の日、回忌がまた来たのなら、ひとりで黙祷を捧げるだけしか。

 鳥の声はまだ怖い。陽桜山の奥とか、きっと都心には珍しく綺麗な自然があるのだろうけれど。そういうところには決まって鳥がいるものだから、興味はあっても足を踏み入れることは出来なかった。いつかこれも乗り越えられる日が来るのかな。もう”心蝕”はいないのにな。

 メゾン縁椿。「行ってきます」「行ってらっしゃい」のやり取りがなくなってからしばらく経つ。寂しいものは寂しいけれど、いずれ慣れてしまうのだろうか。あなたにまた会えた時は笑顔で「お帰り」を言うためにも、悲しい顔ばかりはしてられないな。
 あなたの門出におめでとう。

 雨の日は変わらず、体調が優れない。でもちょっとの雨ぐらいなら平気にはなってきた。けれどこの季節は休みがちになる。
 傷が、いたい。
 がんばる…………。

 クラスメートたちとは上手くやれている……はずだ。ゲームの腕前も上達したから、いずれ、伊智とか千里とかあきらとか誘ってみんなでゲーム大会してみたい。ゲームって面白いんだな、こんなに面白いものがこの世界にはあるんだな。なるほど、外出する子供が減るわけ……?
 期末テストが七月末にあるらしい。数学でまたつまづきそう。誰か……助けて……教えて……。留年だけはしたくねぇ!

 そう言えば私服を手に入れたんだ。白地に、青い模様の入ったパーカー! 動きやすいし何より、おれの大好きな青空を想起させるその色合いが好きになった。ねぇ、おれ、普通に現代っ子に見えるかな、どうかな?

 ラジオ体操部もいつも通りに。相変わらず気紛れなコンポ、時折、自販機ガチャしてはあーだこーだなってる部員たち。おれが直近で引いたのは炭酸メロンソーダ。ただの強炭酸のメロンソーダだった、面白くない。いや、美味しかったけど……何か……物足りない!
 ラジオ体操は第二までは余裕だし、第三も調子が良い時は出来るようになった。ラージナンバー? あれは人がやるものじゃねぇだろ。

 日常は変わったけれど、頭上には綺麗な青空が広がっているし、おれの居場所はここにある!

「……これからも、
  よろしくね」



 おれは、息を、した。