Eno.78 淡島陽葵

10.雨が来た

 初めて対岸に見える小さな島の様子を見に行きました。
不思議な形の木の実がたくさんあって綺麗な水も湧いている。持ってきた釣竿を橋の近くで垂らしたけど、水平線に浮かぶ真っ黒な雲を避けるように魚たちはどこかにいなくなってしまいました。替わりにかかっていたのは小さな石碑でした。
 紙とインクがあれば何を書いているか写し取れそうだったけど、ここにそんなモノはない。あっても燃料か、花火の巻き紙に使うから。

雨の匂いが強い中、私は浜辺に立ち寄った。こういう状況だから、精霊さまにお願い事をしようと思ったから。

「精霊さま、もし見ているなら私たちを守ってくれますか?」


私が住んで"いた"島には大祭の最終日、冬の海の安全を祈るためお供えと願いをかいた人形を海に流す風習があるの。

 陣地に帰ると、沢山の焼いた食糧が倉庫の食糧置き場にありました。
全部、ヒスイちゃんが焼いてくれたんだって。初めてのお料理と思われるモノから私たちより上手に焼けたモノまでいままでにないぐらい大量に。
 今日はちょっと多めに食べて雨に備えよう。いつもの場所で休もうとしたら轟音とともに降りだした大雨、産まれて初めての雨にも負けない大きな泣き声が響く中、事件は起きた。

 ニシュちゃんと、シャチのお兄さんがいなかった。
王子さんは、台風のことを[破壊]と呼んだ。ナメさんも嫌いな雨という。そして気がつくと普段なら冷静なルーシーさんが捜索に向かった。

 私と似た環境からここに流されたんだ。
台風の通り道で暮らしてきた私にとっては日常だけど、ほかの人にとってはいろんなモノを奪っていく災害でしかない。たぶん、捜索に向かったルーシーさんも何らかの災害を経験している。
 
そして数分後、かえってきたけどシャチのお兄さんの姿はなかった。
 そもそもなぜあの人は海の中じゃなくて陸を行き来できるんだろう、あまりにも自然体に接し奪われなかった[個性]を発揮して支えている一人だ。
喪いたくないと、本当に思った。
信じてまつってこんなにも苦しいことなんだと思いながら陣地の整理をしていた。