Eno.275 君影 早霧

4日目 岩場


日差しが強い。皆が暑いと言っている。
それなのに、水がない。
ああ。それなら、水を汲んでこないと。

頭は重く、足元はおぼつかない。
そんな状態で濡れた岩場を歩けば、
足を滑らせることなんて冷静な頭で考えれば当たり前で。

その当たり前すらわからない程に思考が止まった頭では、
自分が溺れそうになったことすら、まるで理解が及ばなかった。

ごぼ、と空気がもれる。
いつかのように無力なだけの手を伸ばす。

不幸中の幸いか、疲労で力の抜けた体は運良く陸へと流された。

這い上がり倒れ伏した先の岩が熱いのか、冷たいのか。
濡れた服が重いのか、疲れた体が重いのか。

いま、息は吸えているのか、いないのか。

ふいに名前を呼ばれるまで、
指先ひとつ、思考のひとかけらすら動かすことは叶わなかった。