Eno.315 直箟 素直

追憶の書 十一頁目

 
『嘘吐きは泥棒の始まり』という言葉がある。

学校では正直を美徳として教えられる。

でもそれは、本当に本人のためを思っての事なのだろうか。


少なくとも、僕の母さんはそうじゃなかった。

自分の都合の良い人間を、
自分の都合の良いように仕立て上げようとした。

僕だって、そうなりたかった。
僕だって、そうなろうとしたんだよ。


でも、僕が薄々感じていた通り、
母さんの疑念は『母さんの頭の中』だけのものでしかなかった。

嘘のつけない僕は、結局、
そういう母さんの心を容れてあげる事が出来なかった。


けれども、もし、僕がもう少し要領の良い人間だったなら……、
優しい嘘で包んであげられたのだろうかと、思う事もある。